雪山登山では、強風や降雪などから身を守るウエアが欠かせません。登山中に着用するウエアの最外層にあたる「ハードシェル」は、過酷な環境においての快適さと安全性を両立させる重要な存在です。この記事では、雪山初心者に向けて、レイヤリングの基本と、自分に合ったハードシェルを選ぶためのポイントを解説します。

青く澄み渡った空と白く輝く稜線、一歩ごとに踏みしめる雪の音だけが響く——。
そんな特別な時間が流れる雪山登山。
しかしその美しさの裏には、氷点下の冷気や吹きつける強風、急変する天候といった厳しさも共存しています。だからこそ、雪山を安全に、心地よく楽しむためにも、適切なウエアの選択が欠かせません。

雪山登山をはじめたばかりの方にとって、最初の壁となるのがウエア選びでしょう。
たとえば、よく耳にするのがこんな悩みです。
無積雪期の山と比べて、気温や風、雪といった環境がまったく異なる雪山では、求められる服装も大きく変わってきます。

筆者が雪山登山をはじめたばかりの頃、初冬の北アルプスで忘れられない経験をしました。スタート時は快晴で汗ばむほどだったのに、時間が経つにつれてガスが湧き、周囲は真っ白に。稜線に出た途端、強風にあおられて一気に体が冷え込んでしまったのです。
結局、稜線を少し進んで、撤退を決めることに。風速1m/sで体感温度が約1℃下がるといわれますが、その言葉の意味を身をもって痛感。風の脅威と防風性の大切さを知ると同時に、肌に汗を残さないための服装の重要性も学びました。

人の体は、体温が下がると脳や筋肉の働きが弱くなるため、疲れやすくなったり判断が鈍くなってしまいます。さらに体温が低下すると、低体温症(※)となり、行動不能や意識の消失といった生命の危険にさらされる可能性もあります。
だからこそ、登山では「体を濡らさないこと」が大切。濡れた体は急激に熱は奪っていくため、それを防ぐためにも、適切なウエア選びが重要になります。
これはアルプスのような標高の高い山だけに限りません。低山でも、朝は地面から冷え、登りで汗をかき、夕方には一気に寒くなるなど、一日の中で気温は大きく変化します。こうした寒暖差も、冬の登山の難しさの一つです。
※)体の深部体温が35℃未満に低下する状態。体が激しくふるえたり、歯がカチカチ鳴る初期症状からはじまり、判断力の低下や動きの鈍り、意識障害へと進行していきます。さらに重度になると、生命の危険に直結することもあります。

変化しやすい山の気候に対応するための基本的テクニックが「レイヤリング」と呼ばれる服装の考え方。これは、機能の異なるベースレイヤー・ミッドレイヤー・アウターレイヤーの3種類のウエアを重ね着することで、体温や快適さをコントロールする技術です。
レイヤリングの基礎ともいえる、肌に近い位置に着用するウェア。汗を吸い上げ素早く拡散する役割を担っています。雪山登山では、メリノウールやウールと化繊を混紡したハイブリッド素材のベースレイヤーが一般的に使用されます。
体の保温と汗の拡散が主な役割。冬はフリースや中綿が封入されたアクティブインサレーションが人気です。ウエアによって保温性や防風性、透湿性など機能もさまざまで、目的に合わせたミッドレイヤーの選択が大切です。
雨や雪、風の侵入を防ぐとともに、熱を外へと逃がさない役割を持ちます。「レインウエア」もここに分類されますが、雪山では防風性と耐久性に優れた「ハードシェル」が用いられます。
もちろん、この3レイヤーの構成はあくまでも基本です。たとえば近年では、ベースレイヤーの下に、汗の逆戻りを防ぐための専用インナーウエアをレイヤリングするのも定番に。アウターレイヤーの下にもう1枚、機能の異なるシェルを重ねる考え方などもあります。
▼ベースレイヤー、ミッドレイヤーの選び方はこちら▼
「たった1枚加えるだけで温かくなる。雪山登山の防寒対策のウエア選び」
それぞれが重要な役割を持つ3種類のレイヤーですが、なかでも、雪山登山において“体を守る盾”ともいえるのが「ハードシェル」です。

いざハードシェルの購入を考えたとき、まず目に飛び込むのはその価格でしょう。同じアウターレイヤーの「レインウエア」と比較しても、素材やグレードによっては2倍近い価格差になる場合もあります。
となると、「レインウエアで代用できないの?」と考える人も少なくありませんが、結論として、「森林限界を超える稜線」など、本格的な雪山登山では安全のためにもハードシェルを使用しましょう。
見た目こそ似ていても、ハードシェルは雪山という過酷な環境に特化した設計になっています。雪面で滑りにくい生地の採用や、アイゼンやピッケルなどのギア、氷との接触にも耐えられるよう、より厚手で耐久性の高い素材で作られていたりなど、レインウエアにはない機能を備えているのです。

ここからは、はじめてのハードシェル選びのチェックポイントについて紹介します。
選ぶ際に意識したいのは、大きく次の3つ。
それでは、一つずつ詳しく見ていきましょう。

まず意識したいのがサイズ感です。雪山では複数のレイヤーを重ね着するため、夏山のウエアと同じ感覚でジャストサイズを選ぶと、窮屈で動きにくくなってしまうことがあります。
かといって、ゆとりのあるサイズを選ぶと生地が余って動きをさまたげることも。さらに、ブランドによってシルエットも異なるため、実際に試着して自分の体型にあったサイズを確認することがとても大切です。
また、雪山ではピッケルやトレッキングポールを頻繁に使うため、腕や肩の可動域も重要になります。試着の際は、腕を上げたり肩を回したりして、突っ張りや動きにくさがないかを確認しておくと安心です。
ハードシェルの生地といえば、防水透湿素材の「GORE-TEX®︎」が有名ですが、各ブランドが独自に開発した素材も販売されています。中には伸縮性を備えたハードシェルも展開されていたりなど、着心地もさまざまなので、いろんなモデルを試着してみると良いでしょう。

続いて注目したいのが、雪山での使い勝手を考えた機能やギミック、それらの操作性です。
暴風時には風雪が顔に直接当たり、体温低下や凍傷の原因になります。ハードシェルの高い襟は首元からの冷気侵入を防ぎ、顔下部を覆うことで体温保持と快適性を確保する重要な役割を果たします。
フードの構造は雪山における頭部の防護に直結します。フィット感やグローブをした状態での調整のしやすさはもちろん、ヘルメットに対応した大きさであること、視界を妨げないかどうかなども確認しましょう。
スマホや小物の収納に便利なポケットですが、多ければ良いというわけではありません。腰や胸など、自分が使いやすい位置にあるかを確認しましょう。雪山用では濡れたグローブを乾かせる内ポケット付きモデルも。ハーネスとの干渉や、グローブ装着時の操作性もチェックポイントです。

ひとえにハードシェルといっても一括りにはできず、「スノーハイク向け」「アルパイン向け」「バックカントリースキー・スノーボード向け」など、目的やフィールドに応じて大きく3種類のタイプに分類されます。
比較的気候が安定しやすい雪山やスノーハイキングを想定したモデル。軽量で動きやすく、ほどよいゆとりのあるシルエットが多いのが特徴です。快適性も重視されており、長時間でもストレスなく行動できます。
本格的な登攀や厳冬期の縦走を想定したモデル。細身で体にフィットしやすく、ハーネスなどの登攀装備と干渉しにくい設計です。高い耐久性と防風・防雪性能を備え、過酷な環境でも信頼できる構造になっています。
滑走を伴うアクティビティに特化したモデル。ゆとりのあるシルエットが多く、内部には雪の侵入を防ぐパウダースカートが装備されています。ポケットが多く備わった収納性の高いモデルも多く、その分、重量は重くなる傾向にあります。
ひとつのブランドにもいろんなタイプが展開されているので、自分が楽しみたいアクティビティやシーンに合ったモデルを選んでみましょう。

こうしたハードシェルに求められるポイントを抑え、スノーハイクから中級山岳の雪山登山に対応するハードシェルが「エバーブレス®プリモ」です。
生地には防水透湿性とストレッチ性を両立したfinetrackの独自素材「エバーブレス®」を採用。動きやすさと快適さを兼ね備え、雪山アクティビティに必要な機能がバランスよく搭載されています。
本製品の強みは、はじめての雪山でも扱いやすい「快適な設計」です。グローブをしたままでも扱いやすい大型ファスナー、風雪から顔を守る高めの襟と調整式フード、長時間行動でも蒸れにくい通気構造など、雪山に必要なギミックを各所に過不足なく配置されています。
POINT
▼finetrack TOKYO BASEでは初心者向け雪山講座や試着イベントも開催。実際に動きやすさを体感できます▼
広がっていく、わたしの世界~雪山を目指す人のための講習会~
また、風速10m/sを超えるような稜線歩きや、登攀要素を含むバリエーションルートを視野に入れている人には、より堅牢なモデル「エバーブレス®︎アクロ」もおすすめ。今後ステップアップして挑戦するであろう中級以上の山域(例:西穂高岳や五竜岳など)でも、その洗練された機能が心強い味方となるでしょう。

高いストレッチ性と耐久性を兼ね備え、グローブ着用時も操作しやすいファスナーや調整式フードを装備。スノーハイクから中級レベルの雪山登山まで、快適な動きをサポートします。
試着、サイズ確認は全国の取り扱い店舗へ
エバーブレス®プリモの機能
エバーブレス®プリモの
雪山の極限環境に挑むための高機能ハードシェル。防水透湿性に優れたエバーブレス®素材に加え、背面には縦137%・横196%の超ストレッチ「エバーブレス®︎ニット」が配置され、ラッセルやアックス操作も快適に行えます。
試着、サイズ確認は全国の取り扱い店舗へ
エバーブレス®アクロの機能
エバーブレス®アクロの