最強の5レイヤリングとは

一般社団法人「ata Alliance」代表: 中岡亜希

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車いすに乗って山に登り、海に潜り、スキーで滑走し、木登りもやってしまう。その痛快な遊びっぷりは、アウトドアアクティビティが決して健常者だけの楽しみでないことを体現しています。-30℃の極寒の地から3000m級の山まで、自ら遊び、多様な人々を大自然へと誘う中岡亜希さん。その夢の原点とは……?(finetrack編集者)

幼い頃からの夢を叶えて日本航空の客室乗務員となり、少し仕事にも慣れ、憧れの国際線乗務で世界中へ多様なお客様をアテンドしながら夢中で毎日を過ごしていたころ、身体に異変を感じるようになりました。
機内でお客様の重い荷物の上げ下げが辛くなり、階段の昇り降りも手すりがないと不安定、常に動きっぱなしの重労働で疲弊した体力は回復せず、立っているのがやっとという状態。その原因を知りたいと病院で検査受け、結果は思いがけない医師からの告知でした。

「あなたは治療法・治療薬が確立されていない進行性の難病で、約10年で歩行困難、そして、いずれは寝たきりになるでしょう」。

それでもなんとか治せないかと休職し、壮絶なリハビリを行いましたが残念ながら仕事に復帰することは叶いませんでした。その後、告知通り病気が進行し、車いす生活が始まった頃、英語を教えていた塾である子どもたちから思いがけない誘いを受けました。

「あきちゃん、一緒に山に行ってキャンプしない?」

とても嬉しかった反面、みんなに迷惑をかけるのではないかという思いの方が強く、子どもたちの思いを傷つけないようにと思いながら柔らかく断ったつもりでした。しかし、子どもたちは悲しそうな表情でこんな言葉を私に投げかけたのです。

「行きたいの?行きたくないの?」

これまでに経験のない感情が全身を駆け巡ったのを覚えています。

「一緒に行っていい?」

その答えに子どもたちは
「やった〜!あきちゃんと一緒に山に行ける!!」と大喜びしてくれました。

登ったのは岐阜県木祖村にある立ヶ峰(1,689m)。冬季はスキー場になる山で整備道を登ったとはいえ、バリアフリーのトイレはなく、当時、機材もウエアなどの装備も経験もなかった私たちにとって、それは全てがチャレンジでした。

柔らかでほのかな光に誘われるように目覚めた朝、子どもたちが不自由な私をテントから出してくれ、澄んだ空気を全身に浴びせてくれました。そして神々しく希望に満ち溢れんばかりに差し込んでくる日の光をみんなと一緒に見たあの情景が今の活動の原点となりました。

その翌年、子どもたちと富士山登頂を成功させたのち、バリアフリーなど環境の整った場所を巡る旅や、障がい者向けのアクティビティに限界を感じ、障がい者とその家族や友人たちが共にする旅の可能性を広げたいとの思いから、車いすでヨーロッパやカナダに渡航し調査活動を開始しました。

自然に身を置くことが多くなり常に感じることは、
「大自然は全ての人を平等に受け入れてくれる。時には優しく。時には厳しく」。

そして、自然に「障がい者割引はない」ってこと。

finetrackとの出会い

調査活動では、-30℃の極寒の地から3000m級の山、海中……また、雨の日、雪の日など様々な自然環境に身を置きます。身体が不自由な私は体温調整が難しく、信頼できる装備やウエアが命綱となります。さらに動けない私と介助者との運動量が違うことから、ウエアの着脱で介助者に負担がかかり、さらに荷物も増やしてしまうことが悩みで活動に限界を感じていました。

そんな中、ある人からfinetrack社を紹介され、カタログやHPに穴があくほどチェックしました。

着脱せずに体温調節ができる5レイヤリングシステムは、障がい者である私と介助者が同じウエアで自然と向き合え、突然の気候変化にも対応でき、軽量かつ高機能な素材は私の身体的負担と不安、介助者の装備の負担を軽減できるのではないかと心踊りました。

そして、金山社長を始めスタッフの皆さんに会う機会ができ、これまでの悩みをぶつけました。さらに昨シーズン日本で初めて導入されたデュアルスキーという着座式のスキーに必要な防寒フットウエアーは日本に存在せず、その必要性を訴えたところ、今シーズン初めに試作品が完成しました。

まずは八方尾根で実感。

今年2月「レッグソック」を携え、八方尾根で実証実験。総滑走距離 約5000m、最大斜度 35度、標高差1070mをデュアルスキーで滑走。天候に恵まれたとはいえ、総重量100kgを超えるDualskiを極限の状況で操作するDualskiパイロットと、動くことのできない私が同条件で滑走という前代未聞の実験結果は、両者ともに『快適』という一言。レイヤリング、という考え方と素材の機能性に驚きが隠せませんでした。

この日本でただひとつの「レッグソック」は、さらに改良を加え2018年、ドイツで開催される福祉機器の国際見本市に出品し、世界に向けてJAPANクオリティーをPRしたいと考えています。

この結果に俄然、気を良くした私。今度はどんな環境下で、どんな実験をしようかと今から心踊っています。

一般社団法人「ata Alliance」代表
中岡亜希

障がい者や大自然を楽しむことを諦めかけていた人々、その家族・友人たちが、同じ時間、景色を一緒に楽しむための事業を展開。自身も、アウトドア用車イスに乗って山や森を楽しみ、夏はスキューバダイビング、冬は「Dualski」で雪原を滑走する。

http://www.ata.tours/