DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

投稿者: 相川 創  ■写真:相川、大西 良治、田中 彰

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スタッフの遊び記録
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見上げても、はるか天頂付近にわずかに空を望めるのみ。
側壁は、100m以上も垂直以上の傾斜でそそり立ち、時には覆いかぶさって洞窟のようにすらなっていて、一切の逃げ場はない。
数100mクラスの巨大な滝はないものの、水が水平に流れるところはほとんどなく、ある意味すべてつながった一つの巨大な段瀑といえるかもしれない。
その中に、氷河から流れ出した氷のように冷たい膨大な量を水を流し込んでいる・・・
そんな周囲から圧倒的に隔絶された異様な空間、Gloomy Gorge(グルーミーゴルジュ)はそんなところだった。
これまで見た最恐のゴルジュであったことは間違いないだろう。

「世界最難のキャニオニング課題」として知られるこのゴルジュはニュージーランド南島、Mt.Aspiringの西面にある。2012年にフランス人チームによって偵察とルート工作が行われ、翌年、前年の工作チームの一人を含むニュージーランドチームの4名により、夜通し20時間の連続下降によってfirst descentが行われた。そして、その後のリピートは全く行われていない。
このGorgeを下降することは、計画の発案者である大西さんの3年がかりの執念の計画だった。
2015年にこのゴルジュの中を上からの偵察で見て、それでもひるむことなくここを下ろうと思い続けてきた思いの強さには本当に敬服してしまう。
そして、この計画に声をかけてもらったことに、感謝。 

■遡行日:2018年3月11日~15日

僕らがトライするとしたら、オンサイト下降では夜間行動などはさすがに無理。使える残置物は利用させてもらうとしても、少なくとも30時間くらいはかかるだろうとして、ゴルジュ突破に3日。アプローチ含めて合計5日間の計画とした。しかし、ゴルジュ内に泊まれる場所があるのかは不明。最悪、着のみ着のままのお座りビバークになる可能性も覚悟していた。
メンバーは4人。大西良治さんと私、Jasmin、そして最後に強々のキャニオニア、田中彰さんが加わった。台湾・恰堪溪(チャーカンシー)の初下降チームに私が加わった形だ。Expedition Canyoningのチームとしてはベストな布陣だろう。
■3月11日
初日はアプローチ。West Matukituki Trackの気持ちの良い道を行く。キャニオニングではどうしてもギアが多い。平均のザックの重量は25㎏を超えた。

■3月12日
夜明け前にスタート。French Ridge Trackを1100mまで登り、右手の藪斜面を下ってGloomy Gorgeへ向かう。ワンポイントのラッペルで河原に降り立ち、間もなくゴルジュが始まった。膨大な水量だ。

一発目のラッペル。1st descent時にセットされた支点は生きているようだ。

ゴルジュはどんどん深く、細くなって水路上の様相に。ラッペルで流水中に着水し、泳ぎ抜ける。

ヤバい滝が出てきた。落ち口上での微妙なトラバースを決める。

キャニオニングではロワーダウンでロープ長を調整しながら下降し、着水後ロープから外れて泳ぎ抜けるか、ロープを引いたままラッペルしてガイドラインを張るか、というのが基本メソッドとなる。

厄介なのは、水面に降りることができない水路状のゴルジュ。
Gloomyではこれが非常に多く、トラバースするしかないのだが、荷物が重いので荷下げが必須となり単純なラッペルよりも非常に時間がかかった。
今回、支点とフィックスがかなり生きていたがオンサイト・ルート工作なしでの下降はほとんど不可能課題に思える。

いったんロープを解いて、側壁トラバース。
Gloomyではこのようにロープを解いて普通に歩けるところがほとんどなかった。

再び、左岸側をトラバース気味のラッペル。
しかし、着水してから先の岩に上がる部分が、流されるとシーブに捕捉されそうでかなりリスキーだ。

何とかCS(チェックストーン)の上に。
すべてのポイントが核心ともいえるこの谷では下降は遅々として進まず、この時点ですでに夕方になっていた。
CSの右手にわずかに泊まれそうな場所があり、ここをビバークポイントとすることにした。常に滝のしぶきがかかり、ずぶ濡れの寒いビバークだった。
■3月13日
ゴルジュ内2日目。短いラッペルから右に屈曲した先に空間が広がっている気配。
恐らくは大きな滝。ビレイ態勢をとって、慎重に様子を探る。

やはり、ヤバい滝が登場。落口で微妙なトラバースを決めなくてはならないが、ビレイしているとはいえ、流されたら引き上げることは非常に厳しい。
細心の注意を払って試行錯誤しながら水流中のスタンスを探り、何とかトラバースに成功。トップの彰さんをして、最も恐ろしかったポイントだったと。

40m程度のラッペルののち、水の流れを読み切った先行の彰さんが白濁する釜を泳いで越える。
しかし、2ndのJasminが危うく落ち口に向かう流れに乗りかけて肝を冷やした。この後も60m位の滝が続いているのだ。

こんな場所だ。後続二人はビビッてロープを使った。

水路状ゴルジュはさらに厳しくなっていく。水線にはとても降りられない。
ひたすらのトラバース。

そしてチロリアン。

落ち口の小さな岩にいったん集合。まだまだ水線には降りられそうになく、トラバースが続く。

巨大な沸き立つ釜に凄い勢いで滝が落ちる空間に出た。
40m位のスケールのラッペルで着水し、波立つ釜をトップは泳ぎ切り、後続はガイドライン懸垂で抜けた。
この時点で、すでに18時だ。
少し先で、奇跡的に洞窟発見。屈曲した先だったので滝のしぶきも直接当たらず、この状況ではこれ以上ない泊り場だった。
ここをゴルジュ内2日目のBPにした。
昨日も今日もせいぜい5つくらいしか滝を下降できていないことに愕然とする。
Gloomy Gorge全体でも水平距離にしたら、わずか800m。標高差は350mほど。しかし、出口は果てしなく遠い。

■3月14日
ゴルジュ内3日で抜けれると踏んで食料は二晩と予備食くらいで残りは出口にデポしてきていた。しかも、明日は雨予報。今日中に抜けたいところである。
朝から洞窟のようなゴルジュに降りていく。

厄介なトラバースが続き、いったん水面まで下りて、わずかな岩の上に全員集合。

そして、一段と暗い、まさに洞窟のようなゴルジュに降りていく。
このゴルジュ、下るにつれて開けるどころかさらに細く、深く、側壁が切り立っていくのだ。
この洞窟のようなゴルジュからは、冷たい風が吹きあがってきて、まさに地底に降りていくような錯覚を覚える。

この洞窟のような区間は、最も時間がかかったポイントだった。
1st descentのチームのボルトやフィックスロープは、壁の沿ったところではおおむね残っているのだが、壁から離れたところのロープは大抵切断されてなくなっている。
トップはフィックスを利用して右岸を2ピッチトラバースの後、フィックスが途切れたところでラッペル途中で振り子のようにロープを少しづつ揺さぶりながら左岸に移るテクニカルなラッペルでくぐり抜ける。
フォローはフォローで、難解なロープワークを解きながら、荷物の輸送に非常に手間取った。
下降した先は、洞窟を落ちてきた奔流が巨大なひょんぐりを構成しているすごい空間。時間は17時を回り、この先もずっと細いゴルジュが続いているようだ。今日中に抜けるのは厳しいか。
下降中に見えたレッジに向かって2ピッチクライミングしてみると、しぶきの当たらないまずまずのビバークポイントだった。ここでゴルジュ内3日目のビバーク。
予備食のマッシュポテトとわずかなご飯を分け合う。

■3月15日
ゴルジュ内4日目。レッジからのラッペルで始まる。

ここからの水路がトラバースは困難で悩ましい。流れの先に上陸できそうな地点が見えたので、流れ下る作戦にする。
流れたまま一段滝落ちして、右岸の岩棚に上陸。

右手の壁を一段上がってみると、狭いゴルジュに2つの巨大CSがはまり、その下を滝となって一気に高度を落としていた。
とても水線を行ける状態ではない。

谷に挟まる2個の巨大CSの上を通って、水路に向かって下降していく。

着水して流れの速い水路を泳ぎ抜ける。

ゴルジュ出口だろうか。開けた空間が先に見えてきているが、まだまだ気は抜けない。

ラッペルから飛び込み。ここは、先に浅瀬が見えていたので、右のアンダーカットにだけ入らないように気を付けて、快適に泳ぎ抜ける。

ようやくゴルジュを抜けた!

開けた沢をワンピッチ懸垂し、河原を歩いていくと、Matukituki川本流まではまもなくだった。雨もふりだし、間一髪だったといえるだろう。アプローチ道を戻り、駐車場に着いた頃はすっかり夜になっていた。
濡れることが想定され、予想される気温は一桁だったため、スリーピングバッグは6×4ショートとエバーブレススリーピングバッグカバーの組み合わせにした。筆者は身長170㎝だが、軽量化のため、あえてショートを選択している。
予想通りというか、ゴルジュ内初日でスリーピングバッグはずぶぬれになったが、続く2日間のややマシなビバーク(しぶきがかからないというだけで、ドライとは言えない。湿度はずっと100%近くあったと思われる)で寝ている間に完全に乾いた。こんな状況では本当に頼もしい。
今回の遠征メンバーは、全員ポリゴンネスト(6×4または4×3)プラスエバーブレススリーピングバッグカバーの組み合わせだった。

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