最強の5レイヤリングとは

投稿者: 相川 創  ■写真:相川、八幡

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スタッフの遊び記録
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9月14日、ヨセミテ国立公園、El Capitanの前に立った。
高低差は約900m。世界でも最大級の花崗岩の一枚岩であるこの岩壁の一番目立つところに、今回のターゲット、The Noseはある。
60年ほど前にエルキャピタンの初登ルートととして登られた歴史的なラインであるが、今なお、5人しか達成されていないオールフリー、2時間を切ったスピードトライなど、トップクライマーたちによる先鋭的な挑戦が続けられているラインでもある。
僕ら凡人にはそんな挑戦はできないので、まずは登りきること。それが目標だ

春シーズンから続けてきたトレーニングの成果が、いよいよ試される時だ。

※メイン画像はヨセミテのシンボル・ハーフドーム。

■アクティビティ日:2019年9月14日~21日

(El Capitan The Nose 全ルート)

※これまでののビッグウォールトレーニングの様子は下記からご覧いただけます。

「Road to El Capitan ビッグウォール始めてみました」>>
「Road to El Capitan 荷揚げトレ真っ只中! ~湯川・瑞牆・小川山~」>>

■9月13日 サンフランシスコから入国

クライマーの定宿、国立公園内のCamp4は、今年からハイシーズン(9月は15日まで)は抽選制に変わったらしい。13日、14日はすでに抽選を外していたので、道すがらネットで宿を探すことにした。
13日は国立公園の外のポツンと一軒家みたいな宿をAir bnbで確保。14日は、ちょうどいいタイミングで公園内のキャンプ場の一つ、Upper Pinesキャンプ場に空きが出て、予約することができた。

■9月14日 ヨセミテ入り

初めてのヨセミテだったが、まず人の多さにびっくりした。道路はずっと渋滞、何かするために駐車場に入れようとしても、まったく空きがなく、探し回るだけで時間をかなり浪費してしまう。本当はこの日に軽くクライミングをしておきたかったのだが、買い出しとノーズ取り付きまでの偵察をしただけで、クライミングは断念。キャンプ場で装備チェックをしっかり行うことにした。その間に15日のCamp4の抽選に当たったとの知らせが。16日以降の7日分はまとめて予約できたので、これでノーズから降りてくるまでの宿の確保はできた。


(Upper Pinesキャンプ場で、大量のギアをチェックする)

■9月15日 取り付き~Sickle Ledge

ノーズを登る方法で一番一般的なのは、最下部4ピッチをまず工作して荷揚げ、フィックスロープを張っていったん下降し、タイミングを計ってGo Up、3~4日かけて抜けるというものだ。僕らももちろん、この方法を取ることとし、15日からルート工作を開始した。
早朝発で、取り付きに到着。ノーロープでアプローチの簡単な岩場を登りだす。といっても、実質のビレイ開始点は60mくらいの高さにあり、途中で結構微妙なムーブが出てきたのと、高度にビビってロープをつけることにした。

(シックルレッジまでのルート)

さあ、いよいよノーズの最初のピッチだ。相川のリードでスタート。
このピッチ、クラックというよりグルーブのピンスカー(繰り返しピトンを打って抜いた後が、フレアした穴として残ったもの)をたどる。
日本ではほとんど見ないものだが、ノーズでC2のグレードがついているピッチでは大抵これが出てくる。うわさに聞いていたように確かに普通のカムは一見決まっていても、テスティングをするといとも簡単に抜けてしまう。ただ、オフセットのカムやナッツを使えばうまくフィットされられることは分かった。

1ピッチ目の途中で、軽装で6ピッチだけ登りに来たというパーティがすごい勢いで登ってきたので、先を譲る。取り付きにはすでに3~4パーティが集まってきており大盛況。
僕らのパーティに続いて登ってきた年配のクライマーは、ビッグウォールを100回以上登っているという猛者。今回は、夫婦でノーズを登りに来たとか。皆、いろんなスタイルでこの岩場を楽しんでいるようだ。

この最初の4ピッチは似たような感じで、傾斜はないがプロテクションは微妙。おかげで岩場に慣れるいい練習になった。
順調にロープを伸ばし、4ピッチ目のミニスイング2発でシックルレッジに到着。まだ午後早い時間だったが、今日から抽選に当たったキャンプ4のチェックインをしなくてはならなかったため、本日はここまで。フィックスを張って下降し、荷揚げは翌日に持ち越しとすることにした。
60m3本では届かないという話もあったので、念のため4本ロープを担ぎ上げていたが、問題なく3本でフィックスすることができた。

■9月16日 シックルレッジまでの荷揚げ

この日は、午後に風速40マイル/時の暴風と雨の予報が出ていたので、いずれにしてもGo Upはない。ということで、荷揚げのみして残りはレストとすることにした。

本番と同じ荷物で初の荷揚げをしてみたが、スペースホーリング(自身がカウンターウェイトとなって荷物を上げる荷揚げ方法)で問題なく荷物が上がることは確認できた。順調に午前中には完了し、ホールバッグを固定して下降。

同じタイミングを狙っているのが3パーティあるようで、翌日は思いっきり早朝発で一番乗りを狙うことにした。

■9月17日~20日 Go Up

(Go Up初日のルート)

17日の夜明け前にフィックスロープのユマールでスタート。明るくなる前にシックルレッジへ。が、アメリカ人3人パーティがすぐ後ろから上がってきた。

彼らは、自分たちは3人で効率がいいので先行させてくれと交渉してきた。経験あるパーティの雰囲気だったので、後ろから追い立てられるよりはマイペースで行きたかったので先行を譲ることにした。

3人が登った後を追うように、八幡リードで僕らもスタートする。

ところが、この先行パーティ、リーダーはすごく速いのだが、一番不慣れそうなメンバーの荷揚げが遅い(2ピッチ目以降は修正されたようで、その後は引き離されて行ったが)。
5ピッチ目終了点手前で長く待たされ、さっそく1時間ほど出遅れてしまう。

6ピッチ目を振り返る。振り子トラバース3発でストーブレッグクラックへ。

7ピッチ目を行くパートナーを見上げる。
見下ろせば地面ははるか下、見上げれば視界の届く限りどこまでもクラックが続いている。ビッグウォールを登っている、それを実感する瞬間だ。

ここまではまずまず順調だったが、午後になって非常に風が強くなってきた。9月のノーズは暑いと聞いていたのだが、むしろ寒いくらい。ロープもあぶみも横に吹っ飛ばされるので何かと操作がしにくい。

8ピッチ目に私が凡ミスを連発。荷揚げ用のマイクロトラクションをロープに沿って落としたり、それをリカバリーする段階で荷揚げロープのさばきをミスるなど、2度も下降して登り返す羽目になり大幅時間ロスをしてしまった。また、No.3カムのワイヤが一つ切れるなどのトラブルも。

結局のこの日は予定していたエルキャプタワーまで進めず、10ピッチ目ドルトタワーで完全に夜になってしまい、そこまでとした。
ドルトタワーは、二人で寝る分には快適な宿だった。

(Go up2日目 ~通算3日目のルート~)

この日はドルトタワーからの振り子トラバースでスタートだ。

今回、実力的にそう変わらないだろうということでリード順は完全に朝イチじゃんけんで勝ったほうがリードして、そのままつるべで登ろうと決めていた。
つまり、毎日朝のじゃんけんまでは、どちらがどのピッチをやるか決まらない。

二日目のじゃんけんで、八幡の先行に。
・・・ってことはこのルートの精神的な山場だと思っていたテキサスフレーク(プロテクションの取れない15mくらいの大チムニー)とキングスイング(最大の振り子トラバース)は自分の担当に決定!

エルキャプタワーまでの3ピッチは簡単。
この大テラス、残念ながらたどり着けなかったがノーズの中で最も快適なテラスだというのも納得だ。

さて次が問題のテキサスフレーク、チムニーに入り込んで見上げると、中間部に一つだけボルトがあるものの、そこまでも、その先も落ちたら只では済まないことは容易に理解できた。

グレードはしょせん5.8だと言い聞かせ、登り始める。下部は狭めでスタンスもあるので、中間のボルトまでは簡単だ。ただ、そこから先はフレークが広がっていくうえ、スタンスもほとんどない。迷っていても消耗するだけなので、全力のバック&フットで上部を登り切った。

テキサスフレークを見下ろす。折しも突風のような強い風が吹いてきて、薄い岩のエッジの上のビレイ点は落ち着かない。

ここからはしばらくブランクセクションで、ボルトラダーになっている。逆に言えば、この巨大な岩壁のど真ん中をほぼクラックシステムだけで、見事につないでいるともいえる。
ボルトラダーの先のブーツフレーク脇のC2セクションが悪いようで苦労したようだが八幡が無難にこなし、休む間もなく最大の見せ場ともいえるキングスイングへ。

20mほど吊り下ろしてもらって、どんな感じかとまず軽く壁を走ってみると・・・越えなければならないカンテは絶望的なほどに遠い・・・。やれるのか、これ?

しかし、何度かスイングしながら様子を見るとカンテ手前にホールドがいくつか見えてきた。そこで、少し登り返して位置を変え、小さく振ってまず、スメアでじわじわと前進しカチをつかみ、そこからホールドをつないでいく作戦に変更。

カンテの先がつるつるで苦労したが、ちょっと変化しているように見える茶色いホールドを目指して行って、3回目のトライでカンテを越えることに成功!思わず吠えた!

キングスイング後、スイング開始地点と同高度まで登るまでの20mほどは、プロテクションを残して登ることができない。落ちると逆キングスイングを食らうので少しずつプロテクションを上に移しながら慎重に登る。
荷物のビレイとフォローのロワーアウトも一筋縄ではいかないが、サブの60mロープを使用して解決した。

後は本日の宿予定のCamp4を目指す。2ピッチ伸ばしたところで暗くなってしまったが、どうやらキャンプ4に先客がいるようだ。昨日の先行パーティはだいぶ先にいると思っていたのだが。

仕方ないので18ピッチ目の「OK biby for 1」と書かれたテラスで泊とすることにした。狭いテラスだったが、日本で直前練習で泊まったところよりはだいぶましだった。
夜は風が強く寒かったが、チューブツエルトにくるまってまずまず快適に寝ることができた。

(Go Up3日目 ~通算4日目のルート~)

朝のじゃんけんで八幡の先行になり、キャンプ4までの短い1ピッチを伸ばしてみると、「Triple Direct」という別ルートから合流してきたという、初日に先行していたパーティとは別の3人パーティが泊まっていた。

動き出す気配がないので、先に行かせてもらうことにする。

この日のハイライト、「グレートルーフ」は本日3ピッチ目。八幡が順調にロープを伸ばしていく。かっこいいルーフピッチだ。フリーで登った場合は、ここが第2の核心になるようで、5.13dのグレードがつけられている。

すると、後ろからド派手な服装のすごい勢いの2人パーティが迫ってきた。なんでも、スピードクライミング挑戦中で、5時間が目標だとか。「僕も最初に上ったときは4日かかったよ。Enjoy!」とか言いつつ、あっという間に抜かしていった。速すぎて、通過待ちもなく、こちらの行動にはほとんど影響なかったほど。

「パンケーキフレーク」と呼ばれる22ピッチ目、23ピッチ目を登って、キャンプ5に到着。まだ明るいので、キャンプ6までは行けそうだ。

24ピッチ目の「Growering Spot」と呼ばれるピッチは相川のリード。プロテクションがかなり悪いと聞いていたが、ヨセミテの岩にだいぶ慣れてきたのもあるが、非常に集中できていて、たいして悪さを感じずに抜けられた。

振り返ってみると、確かに前半部は溝みたいなクラックともいえないようなところを登っていた。

夕日に包まれつつ、もうワンピッチ伸ばして、この日はキャンプ6泊りとした。相変わらず、最後は残業となったが、これでほぼ完登は見えたといっていいだろう。

ところで、キャンプ6、期待していたけど結構外傾していて、しかもかなり小便臭い(ルート上のテラスはだいたいそうなのだが・・・)。
泊まるだけならその少し下のテラスのほうが快適だったかもしれない。

今日が最終日だろう。リード決めじゃんけんは、私の勝利。てことで、本日のハイライト「Changing Corners」は相川の担当に。

フリーでは5.14aがついたピッチだが、エイドで登る分には、コーナーを切り替えた後の数mがちょっと悪いくらい。ブラスナッツの極小ギアで乗り切る。

(「Changing Corners」核心部)

続く美しいダブルクラックの27ピッチ目、終わった気分で取り付くと結構しんどい被ったC2ピッチがある28ピッチ目を越えると、いよいよ最後のハング帯と、そこを越えるボルトラダーが覆いかぶさって見えた。あの上は頂上か!

最後の29ピッチ目を八幡が登る。このピッチは、かなり被っていて、ホールバックは完全に空中を引かれていく。

最後、10mほどを私がロープを引っ張って歩いて、15:50、ゴールの松の木に到着!
4日間つけ続けていたハーネスとロープからようやく解放された。

最初は明るいうちに着いたらその日のうちに降りようと決めていた。
しかし、ヨセミテのすべての大岩壁を見下ろし、奇岩とフォトジェニックな木々が点在する頂上台地があまりに気持ちが良く、かなり疲れていて、水も食料も十分にあったので(水が12Lも余った・・・)、山頂台地泊に急遽変更した。
満点の星空に包まれた、素晴らしい夜だった。

下降路は二つある。登山道沿いにずっと歩いて下る方法、もう一つはEast Ledge下降路といわれるクライマー向けの下降路だ。夜は、登山道沿いがおススメだが、今回はEast Ledgeを選択。

East Ledge下降路は、気持ちの良いルートだが、初見で夜にルートファインディングするのは難しいだろう。

途中、3回フィックスロープでの懸垂下降があるが他は歩いて降りることができる。

El Cap Meadowからのお決まりのショット。やったね!

■使用ギア
<ロープ>
・メイン60mシングル×1
・サブ60mシングル×1
・荷揚げ用 キャニオニング用スタティック60m×1 伸びないので荷揚げしやすく、擦れに強いため気を遣わずに済むのが良かった。
・ホールバッグの補助 細引き6㎜×10m かなり役に立った。

<カム>
・オフセットカム #0.1~#0.5程度 2セット(キャメロット X4 オフセットとエイリアンハイブリッドを使用)
・通常スモールカム 1セット(#0.3、#0.4のみ2セット)
・#0.5~#4 3セット(うち1セットはリンクカム使用)
・#5 ×1
・ビッグブロー 緑×1(全く使わず持っていくんじゃなかった)

<ナッツ>
・オフセットブラスナッツ 1セット
・オフセットナッツ 1セット
・通常ナッツ 1セット

<フック>
・クリフハンガー ×1
・タロン ×1(使わなかった)
・カムフック ×2

<アッセンダー>
各自ハンドル付きセンダー左右ひとつづつ+マイクロトラクションを使用。
予備としてタイブロックを一つ

<クイックドロー>
・ノーマル×6、アルパイン×10

<カラビナ>
安全環つき各自8個程度。大型のHSMタイプのものを多めに持つのが良い。
フリーのノーマルビナは荷物の固定程度にしか使ってないので若干。

<ビレイ器具>
各自シングルロープ用ブレーキアシストタイプを使用。予備として、チューバー型を各自一つ。

<ロープ整理用バッグ>
各自2個トートバッグを持ち歩いて使用。風が強く振り分けておいても吹っ飛ばされるのでかなり役に立った。

<ホールバッグ>
145Lひとつ。排泄物用のケースを塩ビパイプで自作してぶら下げて使用した。
また、サブザックを各自一つ準備。

<その他>
・ビレイ点は整備されているのでその他のスリングはパーティで4本程度で十分。
・あぶみは各自2プラス予備2持って行ったが予備は使用せず。
・アメリカ規格の安いFRSトランシーバーを用意していった。風が強くて声が通らないことが多く、有用だった。ただし、途中で壊れて使用不能に。
・水は1日4Lとして32L持って行ったが、ゴールについた時点で12Lも余っていた。今回、気温がかなり低めだったが、1日3L程度でも十分だったかもしれない。
・行動食は、通常の山行より少し少ない程度用意していったが、あまり食べる時間もなく、かなり余った。

 

シェルターとして何を使うか迷ったが、チューブツエルトを選択して正解だった。

ロープを通して、口を少し絞ればほぼ閉鎖空間を作ることが可能。また、レッジ泊では物を落とさないように細心の注意がいるが、チューブツエルトは袋状なので中に入ってしまえば物を落とす心配がなく、その辺に無造作に物を転がして置いたりしてラフに生活できるのが非常に良かった。
雨対策のつもりだったが、気温が低く、夜は0℃近くまで下がって寒かったため、初日の夜以外はいつも使っていた。

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