山は自己完結がモットーのため、無補給で歩くセルフチャレンジが好きだ。
今年のGWは11連休と長く、社内では大峯に行くという声がちらほら。
振り返ると大峯山系は八経ヶ岳や山上ヶ岳といった定番コースしか歩いたことがないため、点を線で繋げて奥駈けたい!と思い地図を広げた。
距離約100km、累積標高約8000m
事前に細かく情報収集すると面白さが半減するため最低限の情報(小屋、水場)のみ調べ、2日間たっぷり楽しめる計画を立てた。
初めて大峯奥駈道を縦走するにあたりソロではリスクが高いため過去に経験したことのある友人の田中氏に声を掛けると二つ返事をもらった。
■アクティビティ日
2025年5月2日~5月3日
GWでも天候が荒れれば体感0℃ぐらいまで冷えこむ想定として、今回はカリッカリに装備を削らず大峯奥駈道を楽しむというコンセプトのもとファストパッキング寄りにギアを選定。
保温着、着替え、エマージェンシーなど食糧込みで約4kg。
水は最初の補給ポイントとして小笹の宿の水場を想定したので2L。
ザックは20Lに収まり、日帰り登山並みのパッキングサイズとなった。
5/2(金)
0時スタートを予定していたが、午前中まで激しい雨予報のため翌日始発に乗って、朝8時スタートに変更した。
しかし朝一で人身事故の影響で予定より遅れて吉野駅に到着。
平日と雨も相まって吉野駅は閑散としている。
逆峯(ぎゃくふ)のため吉野駅からスタート!
スタート時の降水量は4〜5㍉程度のため最初から上下レインを着込み、9時にスタートした。
濡れたアスファルトをぐいぐい登り、晴れていれば観光客で賑わう茶屋街を通る。
思ったよりも暑いがこの天候で1枚脱ぐのは手間なのでリンクベントを開放し、汗をかかないペースで登っていく。
吉野山の最高峰。手作り感がすごい
しばらくすると二蔵宿小屋に到着。こんな天候では屋根の存在は有り難い。
小屋の中に入るとソロの方が悪天候のため停滞されていた。
標高が上がり気温が低いため汗や雨で体が濡れていると低体温症になりかねない。
女人結界門のある五番関を過ぎ、松清茶屋に到着すると数名の参拝者が休憩されていた。
結界門をくぐる瞬間は初恋のようにドキドキする
松清茶屋手前。円満不動明王様の迦楼羅炎がカッコいい
西の覗きは真っ白なので高度感ゼロ。晴れていれば気を失うだろう
雨とガスで眺望ゼロなので写真だけ撮って次へ進む。
いよいよ神聖な場所へ足を踏み入れる。よう、お参り
山上ヶ岳では明日(5/3)に大峯山戸開式が開催されるため関係者が準備に追われていた。
長時間休憩すると体が冷えてくるので山頂を踏んだらすぐに出発した。
笹の色と同色の田中氏。ここでは黄色のウエアは思ったよりも目立たない。
雨とはいえ心地よいふかふかトレイルが続いたものの、大普賢岳に近づくとトレイルは荒々しくなり一気に標高を稼ぐ。このあたりでようやく雨は落ち着いたが、気温が低く風も強いのでレインは継続着用。
絶景は次回にお預け
七曜岳付近は思ったよりも岩場が続き緊張した
急なアップダウンを繰り返し、日の入り前に行者還避難小屋へ到着。
すでに複数名が寝泊まりされていたため軒下でナイトハイクの準備をして地図をチェック。全行程の1/3まで進んでいた。
いよいよここからナイトパート。
大峯奥駈道で最も歩かれているトレイルを進み、弥山小屋には当初予定より遅れて到着。
時折ガスが切れるが街の明かりが見えず、人里から遠く離れていることを認識した。
まだまだ元気。楽しむ気持ちを忘れずに
消灯間近のため邪魔にならないよう、即出発。
近畿最高峰である八経ヶ岳の山頂付近から風の吹きさらしと気温も低いため、わずか3分程度の休憩で体が震えてきたのですぐに動き始めた。
ビュンビュン風が吹いていて、とにかく寒かった
しばらく我慢して歩いたものの体が煽られるぐらいの強風が続き、あまりの寒さに耐えられず東側に回ったタイミングで保温着を2枚着用し、グローブもレイヤリングで装着した。
予備として保温着を持ってきたがこれが大正解。この時期の5枚レイヤリングはいささか想定外だった。
また、プチロストを繰り返したことでメンタルが削られ同行者との会話も減っていく。
ナイトパートの大峯奥駈道はそう容易くいかない。
釈迦ヶ岳山頂直下ではロープが凍りついており、寒さを物語っていた。
山頂で絶景を拝めたいところだが夜明けまでまだまだ時間がたっぷりあるので先へ進み、この先の深仙小屋で南奥駈に向けて水とエネルギー補給のため大休止とした。
憧れのお釈迦様の前でハイポーズ
今回の行動食は約8,000kcalを持参。
メインはカロリーメイトチョコレート味40本4,000kcal。
・無印良品のバウム、ウエハース、ミックスナッツで2,000kcal
・ジェル、グミ系920 kcal
・ドリンクミックス系850kcal
・高級グラノーラ(不明)kcal
いつもに比べてバリエーション豊富。カロリー計算はしても金額計算はしません
いかなる状況下でも食べやすく栄養バランスとコスパが優れているカロリーメイトに勝るものはない(個人差あります)
暗闇の中をどのくらい歩いたのだろうか。
南奥駈に入り、下り基調とはいえ尾根沿いのトレイルなのでアップダウンを繰り返す。
くぐると極楽に行けるそうですが、暗闇で本当に逝ってしまいそうなので今回はパス。
前半戦終了。ここから本番
ふと時計を見ると4時を過ぎていた。
次第に後方の山並みが紅く染まり始め、明るく解け込まれていく。
朝日が昇り雰囲気が良いので思わずシャッターを切る
持経の宿に到着するころにはすっかり日が昇り、気持ちのいい朝を迎える。
宿泊されている方と出発が重なり、話を伺うとやはり昨日は酷い天候で大変だったとのこと。まだまだ先は長いのでお互いエールを送りあい、それぞれ出発した。
雨と夜間行動だったので、人に会わない時間が続いたがここから登山者と出会うことが多くなった。人との出会いにパワーをいただく。
南奥駈のトレイルはよく整備されていて道標や小屋が適宜あるので不安要素がとても少ない。新宮山彦ぐるーぷの皆さんには感謝でしかない。
遥か遠くまで続く山並みと下界の人工物が見えない山深さを堪能しつつ、行仙宿小屋へ到着。
笠捨山の登りは奥駈の中で一番きつかったと思うぐらい堪えたが、山頂ではこれまで歩いてきたであろう山々が見え、絶景を前に大休止とした。
総距離が70kmを超え、地図を確認すると全行程の2/3が終わっていた。
山頂までの登りは永遠に続くと思ったが、時間にしてみるとそこまでかからなかった
山並みが幾重にも重なる絶景ポイントのひとつ
ここから急な下りを進むと最大の難所である地蔵岳の取り付きに到着し、ポールを畳んでいくつもの鎖場を超えていく。
思ったよりスタンスはあるもののビビリミッター発動。
高所恐怖症にはこの下りは恐怖でしかない。
必死で鎖にしがみつく。地蔵岳通過にコースタイムの1.5倍を要した(と思う)
ここからまた急な下りが続き、登り下りの連続と暑さもあり水が心配になってきたところで車道が見えた。玉置神社まであと少し。
道のわきに設置してあった。まさに奥駈けてるなと実感した
木漏れ日が心地よく、脳からメラトニンが大量に分泌されてきたので眠気覚ましのため走りはじめた。
傾斜がキツければ歩こうと思ったが、思ったよりも傾斜が緩く走れてしまう。
こうなったらドーパミンがドバドバ産出される、いわゆるランナーズハイを経験したいと思い全力で走り始めたが、何も起きずただ疲れただけで終了。
追い込みが足りなかったのではと思ったが、24時間連続行動中の身としては3倍界王拳の状態なのでこれ以上のプッシュは心身に負荷がかかりすぎると判断し、やむなく諦めることにした。
眼下に広がる絶景に思わずシャッターを切る
玉置神社に到着すると参拝者の多さに驚いた。
香水の香りに思わず振り返りそうになるが煩悩を捨て、獣臭いであろう私たちは息を潜めながら先へ進む。
下界が近づいてきたとはいえ、本宮大社まで残り約15km。
日没ぎりぎりには下山できそうだ。
大森山の急登で脚が重くなり終始無言で進んだ。
時間をかけてラスボス級の大森山の山頂へ到着したが、眺望が全くないためそのままスルー。
大森山山頂手前にて。山のうねりが美しい
大森山を過ぎれば下り基調かと思いきやここからが手強い。
五大尊岳の下りはまさに転げ落ちるような斜度で落ち葉もあり滑りやすい。
というか滑りながら降りた。
終盤でこういったテクニカルな下りは事故の原因にもなるので注意して進む。
ようやく熊野本宮大社を肉眼で確認。ゴールが見えてきた。
ここからもうすぐ終わるだろう詐欺が永遠と続いた
下っては登り、また下っては登りの繰り返しで終わりがみえない。
最後の最後までアップダウンの連続で、よく言われる「熊野川が見えてから本宮大社まで長い」はまさに言葉通り。尾根沿いを歩くので最後まで一筋縄ではいかせてくれない。
ようやく目の前に熊野川が現れたが日没のためここを渡るのは困難と判断し、橋を通って本宮大社まで移動した。
残念ながら参拝時間は17時までのため今回は中に入ることができなかった。
ゴールの達成感はあまりなかったものの、トラブルなく無事にたどり着けたことに感謝の意を込めて深く黙礼をして今回の旅を終えることにした。
残念ながら参拝終了のため、ここで手を合わせた
大峯奥駈道を歩き終えて感じたことは2つ。
修験道としての厳しさや険しさ、山深さを受け入れ、頭を空っぽにして自己との対話ができたこと。
もう一つは、リスクに対処できるよう入念な事前準備が功を奏したこと。
特にfinetrack社の製品は悪天候になればなるほど真価を発揮。
少々厳しい環境下でそれぞれのレイヤーが完璧に仕事をしてくれた。
と、現実に戻って帰宅の準備を始めるが下山時刻が遅く、すでに本日の公共交通機関は終了していた。
路頭に迷いそうになるが実はこうなることを想定して、笠捨山の山頂で妻に迎えに来てもらうようHELPをしていたのだ。
全く情けない話だが自己完結に至らなかったことが今回山旅最大の反省点である。
妻に多大な迷惑をかけてしまった自分はまだまだ修行が足りていないので、来年のGWは高野山からスタートして小辺路+大峯奥駈道(順峯)修行をした方が良いかもしれない。
そう思いながら助手席で爆睡して家路についた。
最後に
あくまで大峯奥駈道を縦走したのであって奥駈をやったとはいえない。
事実、修験者のように行や靡を通らず、いくつかのピークもまいているため正式な奥駈とはもっと厳しくてハードである。
ポリゴン®ULベスト
軽量コンパクトかつある程度の保温性があり、汗や雨で濡れても他社化繊保温着に比べて圧倒的に乾きが早い。今回の雨に打たれる修行山行(厳しい天候)では絶妙な保温性と速乾性のバランスが非常によかった。これがなければ途中下山という選択をしていたかもしれない。
執筆者:販売促進営業課 辻本 浩久
入社年:2023年
今年の夏は丹波の國200マイル、宿題を片付けるためアルプスでセルフチャレンジを計画中。
最近、妻がトレランに目覚め(半強制的に)平日の早朝トレーニングが取り合いになることを恐れる一方、ゆくゆくは夫婦でTAMBA100に出場することを目論んでいる。