DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

投稿者: 平田 渓 撮影者:岡嶋、苅田、平田

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スタッフの遊び記録
ACTIVITIES

ジャンダルムの上に立ったとき、私の口から例の言葉が自然とこぼれ落ちた。
そう、シャルル•ド•ゴール空港でミポリンこと中山美穂に一目ぼれした辻仁成がその後の対面時に言ったというあの…

「「やっと会えたね」」

もちろんジャンダルムは何も答えない。
私の中で否応なく、夏が加速するのを感じた…。

■アクティビティ日:2025年8月30日~8月31日

1.そして10年が経った…

15歳の夏だった。初めて”そいつ”を見たのは。

親父に連れられ半泣きで大キレットに向かう道中、北穂高岳から振り返ると”そいつ”はその禍々しい姿を私の脳裏に焼き付けた。


10年前の涸沢カール。山は変わらない、変わったのは私。

「キミが強い登山家になるまで、キミはずっとボクに生かされているんだよ♠」
その険しい山塊は私にそう告げているようにさえ見えた。
迫力、威圧感、恐怖を覚えるとともに”そいつ”に登ってみたいと胸が躍った。

そして、10年の歳月が流れ”そいつ”へ挑戦するチャンスが訪れる。
国内最難関登山道、誰もが一度はあこがれを抱く…”ジャンダルム”にだ。

2.あたしゃプリンを食べんの!

7月某日の昼休憩中、物語は再び動き出す。

私はいつも通り大好きなプリンに舌鼓を打っていたそんな時、背後から聞き覚えのある声が。

「ヒラタケ、お前も山に行かないか?」

振り返ると、声の主は「山岳ハラスメンター上弦の三 岡嶋」の姿が。
5月に私が屋久島男塾山行をするハメになったのもこの鬼の一声が始まりだった。


山岳ハラスメンターズの一人、岡嶋氏(右)。

この人からは何度か遊びの誘いを受けたことがあるのだが、どれも私にとっては危険かつハイレベルだったため、仮病やありもしない予定があると嘘をついてうまいこと逃げてきた。
何より、私は今大好きなプリンを楽しんでいるのだ。

いつも通り「ハハハ…ソッスネー…」とスルーを決め込むも、その声むなしくハラスメンターの耳には届かず次々と厳しめな提案が降ってくる。

岡嶋「例えば、〇〇岳周回とか〇〇三山ピストンとか〜…」

平田「ナルホドッスネー…(知らん知らんそんな山!あたしゃ昼休憩はプリン食べて昼寝するって決めてんの!)」

岡嶋「〇〇沢とか、ジャンダルムとか…あーいっそキャンプとかでも!」

平田「ん?」

プリンを食べる私の手が止まった。

平田「今…今なんと?」

岡嶋「いっそキャンプとかでも…」

平田「その前!」

岡嶋「ジャンダルム?」

ピカピカピカドッカ――ン!

プリンを食べていたスプーンは床に落ち、10年前の真っ赤な夏の衝撃が突如脳内で再生される。
点と点が線で繋がった。アハ体験とはこのことだろう。

平田「いぎたいっ!…!私も一緒にジャンダルムへ連れてって!」
見たことはないが某海賊アニメの有名セリフが口からこぼれていたことは言うまでもない。

岡嶋「そういえば苅田君もジャンダルム行きたいって言ってたよね?巻き込も、巻き込も!」


道連れにされて嬉しそうな表情を浮かべる苅田(右)

仲が良い先輩の苅田もチームに引き入れ、こうして「FT young guns」が結成された。

3.WAKU WAKUさせて(1日目)

北アルプスでこの夏、最後の宿題を片付ける「finetrackのスピードスター」こと辻本大先生の車に同乗させていただき新穂高へ。
新穂高の冷たい空気、ジャンダルムへの想い、同世代との山行…WAKU WAKU DOKI DOKIだ。

準備するスピードスター。動きが速すぎてカメラで捉えられない。

4時半にしてバッキバキだ。

「FT young guns」はゆったり準備し5時半に出発。

WAKU WAKUな先輩たち。

コースは新穂高から穂高岳山荘を目指す「白出沢コース」。
99%が登り、行動時間9時間、標高差約2000mの男塾ルート。は?(半ギレ)


のっけからまあまなスピード感。んしょ、んしょ。

先輩らの容赦ない歩行スピードを目の当たりにし「あ、この人たち男塾する気だ」と察した。もうWAKU WAKUからはかけ離れつつある。

新穂高から穂高平小屋まではゆるやかな道。私たちが歩いている岐阜側は日陰のため、早朝はやや肌寒く、時折木々の隙間を通り抜けてくる風に肩をすくめる。

おにぎりチャージする苅田。包装剥くの下手すぎだろ。

穂高平小屋からは今までのチャッピーな道とは打って変わってガツンと急登が現れる。さらに太陽が登り始めたこの時間の登山道は灼熱と化した。

ごっつい長いでっせぇ、この道ぃ。

あっち―や

荷継小屋跡(標高2200m)まで、暑さと急登の角度に文句を垂れながらも順調に高度を上げていき、やっと穂高岳山荘を視界に捉えた。
ここで私と苅田は、スラムダンクの桜木と流川バリのハイタッチを交わす。

しかし、絶望はここからだった…


苅田「小屋がちらっと見えたよ!」平田「っしゃー!元気出てくるっす!」

この時、すでに異変は起こっていたのだ。

おかしい…小屋が近づかない。

「誰かにスタンド攻撃を仕掛けられているに違いない」と周りを見渡すも、ほかのハイカー達も術中にハマっているようでかなりしんどそうに見える。
こういうのは決まって遠隔タイプのスタンドなのだ。歩くしか倒す方法はないのだ。


小屋近づかないねー、動悸がDOKI DOKIだねー

遠隔のスタンド攻撃に悪戦苦闘しながらも、キャプテンから「あと700mだよ!」とのアシスト激励をいただく。
今日の標高差の半分を切っていることに気がついた苅田と私はここで再度ハイタッチを交わす(←チョロい)。
流石はキャプテン、私たちの機嫌はもはや彼女の掌の上だ。こういう部分がキャプテンたらしめる所以である。


キャプテンは余裕のWAKU WAKUだ。

10分後、キャプテンがまた一言。

岡嶋「よーし、あと700mです!」

…は?

苅田・平田「さっきも700mでしたけど?なんすか?この10分は無駄だったってことっすか?」

私と苅田でキャプテンを詰めたところ、どうやら私たちのことを想った優しい嘘だったそう。

時に優しく、時に厳しいキャプテン岡嶋は私たちの金八先生であり、江田島平八だった。

同じようなやり取りを5回ほど繰り返し、バチギレ状態で13時過ぎに穂高岳山荘に到着。体はHigh and Highだ。


平田「僕、まだ「あと700mだよ」ってやつ忘れてないですからね」
岡嶋「いいじゃんいいじゃん、乾杯!」

お互い顔を見合わせて乾杯したら優しい嘘への憤りも、ここまでの疲れも吹っ飛んだ。

キャプテン岡嶋は整地のプロでもある。

その後はお昼寝や夕飯の鍋を楽しんで1日目を終えた。

「誰と」「どこで」「どんな背景があって」。食事の美味しさは文脈に依存するのだ。


テント場から見えたジャンダルム。「You’re My Only Shinin’ Star」だヨ。

4.You’re My Only Shinin’ Star(2日目)

前日に「8時間は寝たい」とゴネる者がいたので遅めの4時起き(私だ)。まったく山に向いていない体質に呆れるほかない(私だ)。
周りのハイカーは黙々と準備をはじめ、あたりも明るくなる。

親父から借りパクしているGR1にて

虫が、鳥が、人が、山が目を覚まし世界が動き出す。おはよう世界。

ゆったりと朝食、片付け、準備を済ませ5時45分に出発。

今回の山行の荷物の振り分けは、平田がテント、岡嶋と苅田が食料や燃料を担当。
察しのいい人ならお気づきかもしれないが、食料と燃料は消費して無くなるのに、テントは使用しても手元に残ってしまう。

「不公平だ!あたいの荷物だけおもた~い泣」と駄々をこねていたらキャプテン岡嶋がテントを持ってくれることに。カッコイイ!(ありがとうございます!)


絶好調のFT young guns☆〜(ゝ。∂)

最初のチェックポイントは奥穂高岳。のっけから3点指示ヨロシクなコース。
しばらく登り、息を整えるため立ち止まると先頭を歩くキャプテン岡嶋が我々の後方を指さした。
その先には、槍ヶ岳や裏銀座の名峰、立山連峰、白馬連峰などなど息をのむほどの北アルプス大パノラマが広がっていた。


ああ 良き天気 心安らかなり

このような景色を目の当たりにすると、特別な信仰心はなくともなにかの存在を感じてしまう。

昨日別れたスピードスター辻本は今どのあたりにいるのだろう?遠くに見える稜線はどこにつながっているのだろう?と盛り上がっていると苅田が「僕、穂高初めて来たんだよねー」と真顔のカミングアウト。意外!

穂高チェリーの苅田。最高の景色を楽しんでいるようだ。

順調に高度を上げ奥穂高岳に到着。
大好きな先輩とこうして山に来れてすでに胸がいっぱいだ。

恒例のハンドシェイク

「チョー気持ちいい!よっしゃあ!お疲れさん!もうこれでよくない?上高地下らない?」そう告げようとした瞬間、ザックを背負いなおした岡嶋が「さあここから集中して行くよ!」と一言。

そうだった。10年前この胸に誓ったジャンダルム踏破の気持ちをもってここまで来たのだ。
ヘルメットの顎ひもを締めると同時に、気を引き締めなおす。


ジャンダルムを望むとき、またジャンダルムもこちら側を望んでいる。
こいつがさっきから、ちらちらと私たちに禍々しいオーラを送ってくるのだ。

最初の難所は「馬の背」。数100m下まで切れ落ちており、かなり高度感がある。
人工物はなく頼れるのは自分の身体一つだ。
手元足元をしっかり確認し「もっと下」「もっと左」とホールドやステップの位置を前後から声掛けをして突破。

難所では見えないホールドや、届かないステップを周りからサポートする。

キャプテンは終始絶好調だ。

その後もロバの耳の登りや緊張感のあるトラバース、その他難所を複数超え順調に進む。


先行者がいる場合はフォールラインを避けて待機する。

ダイナミックな登攀の数々を突破し、ついにその時はきた。


岡嶋キャプテン!苅田先輩!ありがとうございます!

10年の歳月を経てついに憧れのジャンダルムの上に…

やっと会えたね…

幼少期無理矢理連れていかれた乗鞍岳や富士山…中学高校の遠足で行ったパノラマ銀座、槍ヶ岳…男塾山行の屋久島sea to summit to sea…そして何より10年前半泣きで歩いた大キレット…。
これまでの山行を思い出し若干エモーショナルになる。
ジャンダルムはまさに「You’re My Only Shinin’ Star」だったのだ。

感傷に浸るのもつかの間、難所はまだまだ続く。ジャンダルムまではこの縦走路のほんの序幕に過ぎない。
このコースは難所が多いことはもちろんだが、長時間行動する体力と集中力が重要なカギとなる。

難所の一つ、逆層スラブ。2歳が創ったレゴブロックのような見た目(←かっこいい)。

メインの難所の後に事故が多発するのはあるあるだ。全く気が抜けない。


前穂のカッコよさに思わず「エ(↑)グイ(↓)!ガチ(→)エ(↑)グイ(↓)」の大学生イントネーションが出る。

個人的に間ノ岳手前付近が最も高度感を感じた。オムツをはいておけばよかったと思った。

グレードが全く緩まない難所をクリアしていき最後の山頂「西穂高岳」に到着。

ヘトヘトで全員ビジネススマイルだ

西穂高岳からの下山中、自分の疲れに気づかぬよう心を無にして歩いていると、前方でなにやらモフモフしたものがうごめいていることに気がつく。
目を凝らしてみると…

きゃわたんなオトモダチが登場。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

西穂高ロープウェイ駅までの長い下りを耐え、16時に無事下山。
初めての10時間行動だったが冷めやらぬ興奮、アドレナリンからか不思議とまだ余裕があった(テント持ってもらったからだろ)。

このルートを歩いて感じたことは、前述したとおり奥穂高岳から西穂高岳まで長時間、集中力をキープすることが重要である。
浮き石やルートファインディング、ステップやホールドの位置などあらゆることに気を配る山歩きとなった。
また、ホールドやステップはあれど脆かったり分かりづらい部分がほとんどで、経験者と同行することや今回のような好天時に山行を計画することで重大事故の発生率を著しく下げると感じた。

何はともあれ、10年も思いを馳せた憧れのジャンダルムを踏破できたことがとても嬉しかった。
いや…本当に嬉しかったのは念願叶ってジャンダルムを登ったことより、一緒に登った同僚と顔を見合わせて握手した瞬間だったかもしれない。

遊びのMVPアイテム

ラミースピンエア
初日の男塾激急登で背中とお腹から噴き出す汗。2日目の緊張感あふれる岩場でジャージャーの脇汗。そんな中でも、どんな時だってサラりと僕のことを包んでくれたんです。
それで僕も風をあつめて、蒼空を翔けたいんです、蒼空を…。

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執筆者:マーケティング 平田 渓

入社年:2023年

この遊び記録を書くために買ったグミ2袋を、SNSを見ている間に食べきってしまった。
果物みたいで酸っぱいからグミを身体に良いモノとして摂取していたが、さいきん口内炎ができたのはコイツのせいだろうか。それからというもの盲信的に健康食品としていたこの機械的?宇宙的?な食べ物からやや距離を取りつつある自分がいる。

※自然の中でアクティビティを行うためには、十分な装備、知識、経験が必要です。事前の準備を徹底したうえで、安全に注意してお楽しみください。
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