ドライを重ねる 5レイヤリング

冬になると広大な樹氷原へと姿を変える吾妻連峰。
なだらかな稜線がどこまでも続くこの山域は、スキー縦走に適したフィールド。
西吾妻山へは、これまでスキーや雪山登山で何度も訪れてきた。
そのたびに視線の先へ続く白い稜線を眺めながら、「いつかあの先まで歩いてみたい」と思っていた。
2022年の初挑戦は悪天候に阻まれ撤退。そして2023年、1年越しとなる再挑戦の機会が訪れた。

■アクティビティ日
2023年12月31日~2024年1月2日

【1度目の挑戦】2022年12月31日~2023年1月1日

吾妻連峰の稜線は起伏が少なく、ホワイトアウト時には現在地を見失いやすい。そのため、まずは春から秋にかけて何度も歩き、尾根の形や地形の特徴を頭に入れることから始めた。
新緑の季節も、花咲く夏も、紅葉に染まる秋も、それぞれに違った魅力がある。歩くたびにこの山域への愛着は深まり、冬の縦走への期待も膨らんでいった。
そして迎えた冬。期待と緊張が入り混じるなか、雪の舞う北陸道を東北へ向けて車を走らせた。

Day1_2022年12月31日
グランデコスキー場のリフトトップから西大巓へ向けてハイクアップを開始する。標高を上げるにつれ、木々には雪と氷がまとわりつき、徐々に樹氷へと姿を変えていった。


スノーモンスターになりそうな雰囲気

西大巓を過ぎると樹氷はさらに巨大化し、雪原のあちこちにスノーモンスターが現れ始めた。巨大な白い怪物たちが立ち並ぶ光景は、まるで異世界のようだ。迷路のように入り組んだ樹氷の隙間を縫いながら西吾妻山へ向かう。スキー板は樹氷の根元にできた細かな凹凸に取られ、思うように進まない。それでも、この景色の中を歩けることが嬉しかった。

ちなみにスノーモンスターは非常に限られた条件のもとでしか形成されない。
* 冬でも葉を落とさない常緑樹であること
* 一定方向から強風が吹き続けること
* 過冷却水滴が発生すること
* 適度な積雪があること
* 気温がマイナス10〜15℃程度まで下がること

こうした条件が揃うことで、アオモリトドマツに氷雪が付着し、巨大な樹氷へと成長していく。しかし近年は温暖化や虫害の影響もあり、各地で樹氷の形成環境が変化しているという。


スノーモンスター。アオモリトドマツが形成する巨大な樹氷。八甲田や蔵王と並び、西吾妻山もその名所として知られている

しばらく歩くと、西吾妻小屋に到着する。すでに1階部分は雪に埋まり、2階入口から入らせてもらって小休止した。
行動食はフルグラを中心に、好物のお菓子をいくつか持参した。軽量化を突き詰めれば高カロリー食品だけで済ませることもできるが、それでは飽きてしまう。長い行程では「何を食べるか」も楽しみのひとつだ。グミ、チョコレート、和菓子。疲れたときに食べたいものを少しずつ持つことで、行動中の気分もずいぶん違ってくる。


西吾妻小屋。2階から入る

ひとりで広大な雪原を歩いていると、不思議な感覚になる。人の存在を感じない真っ白な世界に身を置いていると、自分が自然の中の小さな存在であることを強く意識させられる。畏怖にも似た感情。この感覚が好きだ。ソロ山行ならではの醍醐味だと思う。


神秘的な雪原の風景


ガスに包まれると、一気に世界が閉ざされたように感じる

明月荘まで進む予定だったが、日が傾き始めたため藤十郎付近の窪地で幕営することにした。風を避けられそうな地形を選び、ツエルトを設営する。夜になると風雪が強まり、何度か外へ出て除雪を行った。静かな山中で迎える大晦日。世間の賑わいとは無縁だが、こんな年越しも悪くない。


軽量化を優先し、テントではなくツエルト2ロングを使用した

Day2_2023年1月1日
翌朝、雲の切れ間から朧げな初日の出を見ることができた。淡い光が雪原を照らし始める。しかし空模様はどこか不穏で、天気は下り坂のようだった。


2023年1月1日。初日の出

この後、雪雲が一気に流れ込み、周囲は完全なホワイトアウトとなった。行程としてはまだ半分ほど。しかし、この先で天候の回復は見込めない。しばらく考えた末、来た道を引き返すことにした。縦走は叶わなかったが、安全に下山することもまた山の大切な判断だ。悔しさを胸に刻みながら、再挑戦を誓って白い稜線を後にした。


そして何も見えなくなる

【2度目の挑戦】2023年12月31日~2024年1月2日

そして1年後。昨年の撤退からずっと心に残っていた吾妻連峰。今年こそは縦走を完遂したい。その思いを胸に再び東北へ向かった。
道中、新潟県上越市の名立にある国道8号沿いの食堂に立ち寄る。ここは朝から営業しており、揚げたてのアジフライ定食が美味しいお気に入りの店だ。名店探しは長距離移動の楽しみのひとつでもある。

猪苗代で最後の買い出しを済ませ、グランデコスキー場へ向かう。予報は数日間を通して好天。しかし暖冬の影響で積雪はかなり少ないらしい。雪不足が行程にどう影響するのか、不安と期待が入り混じっていた。

Day1_2023年12月31日
初日の行程は昨年とほぼ同じだ。西吾妻山まではトレースもあり順調に進む。しかし西吾妻山を過ぎると人の気配は途絶えた。目の前に広がる稜線は、昨年とはまるで別の山のようだった。雪は少なく、地面やハイマツが黒々と露出している。前年に圧倒された巨大なスノーモンスターの姿も見当たらない。改めて自然の姿は毎年同じではないことを実感する。


2024年も今日で最後


西吾妻山から先の稜線。前年と比較して積雪はかなり少ない

本日の宿泊地である明月荘へ向かう途中、徐々にガスが広がってきた。弥兵衛平周辺は広く平坦で、視界が失われると方向感覚を保ちづらいので注意して進む。


樹氷はまだ成長途中。徐々にガスが広がり、風も強くなってきた

そして明月荘へ到着。大晦日なので利用者はおらず、小屋は静まり返っていた。内部は想像以上に広く快適で、外の荒れ模様とは別世界のようだ。吹き付ける風の音を聞きながら夕食を作り、静かな時間を過ごす。テレビもカウントダウンもない年越し。雪山の避難小屋で迎える新年も悪くないと思えた。


明月荘

Day2_2024年1月1日
風の唸る音とともに新しい年を迎えた。外は相変わらず強風でガスも濃い。急ぐ理由もないので、温かい食事を摂りながらゆっくりと出発準備を進める。しばらくするとガスが薄くなってきた。今だ!タイミングを見計らって小屋を後にする。


縦走路の標識

東大巓を越え、昭元山付近でシールを外して滑走モードへ切り替えた。視界が開けるにつれて谷地平へ続く斜面が見えてくる。
雪は少なくブッシュも完全には埋まっていない。快適なパウダーランとはいかなかったが、縦走中に味わう束の間の滑走はやはり楽しい。歩きと滑りを織り交ぜながら進み、いくつかの沢を渡渉して谷地平へ下った。


小さな沢を何度か渡渉する


谷地平にて

谷地平避難小屋に到着すると、予想どおり誰もいなかった。静かな小屋の中で荷物を広げ、夕食の準備を始める。16時過ぎだっただろうか。突然、小屋全体が大きく揺れた。最初は強風かと思ったが違う。地震だった。体感では震度4程度。山中では情報を得る術もなく、その日は少し不安な夜を過ごした。後に下山して知ったのだが、この揺れは能登半島地震によるものだった。山の中にいても、その衝撃は確かに伝わってきた。


谷地平避難小屋

Day3_2024年1月2日
翌朝、地震の不安を吹き飛ばすような見事な快晴だった。小屋の外へ出ると、朝日に照らされた吾妻連峰の稜線が輝いている。これまで歩いてきたルートを眺めながら、ようやく天候に恵まれたことを実感した。


谷地平避難小屋と吾妻連峰

ここからは浄土平へ向けて樹林帯を登り返す。雪が十分にあればそのまま登れるのだろうが、今年は積雪が中途半端だ。沢や段差が埋まりきっておらず、ルートを選びながら進む。「あと少し雪が多ければ」そんなことを何度も考えた。

やがて視界が開け、姥ヶ原へ到着した。この場所は秋の紅葉シーズンに何度も訪れている。雪に覆われていても見慣れた山容は変わらない。縦走も終盤に入り、どこか安心感を覚えた。


姥ケ原にて記念撮影

姥ヶ原でシールを外し、緩やかな沢地形を滑っていく。やがて磐梯吾妻スカイラインに合流した。道路上には車の代わりにスノーモービルの轍が伸びている。
しばらく歩いていると、数台のスノーモービルが軽快に追い抜いていった。その後ろ姿を見送りながら思う。ここからゴールの沼尻バス停までは約25kmも歩かなければならない。スノーモービルが少し羨ましかった。


永遠と磐梯吾妻スカイラインを歩く

箕輪スキー場が近づくにつれ、道路上の雪は消えていった。スキーを担ぎ、硬いアスファルトをスキーブーツで歩く。縦走の最後に待っていたのは、この長い舗装路だった。ようやく沼尻バス停へ到着したら、猪苗代駅行きのバスに乗り、さらにグランデコスキー場行きのバスへ乗り継いで車を回収する。

麓にも雪が降ったようで、駐車場の車にはうっすらと雪が積もっていた。

思い描いていた白い稜線を自分の足でつなぐことができた。

中ノ沢温泉で汗を流し、数日間の疲れを癒やす。翌日からは、偶然同じエリアに来ていた同僚と合流した。吾妻連峰、安達太良山、猫魔ヶ岳――。せっかく東北まで来たのだから遊び尽くさないともったいない。

遊びのMVPアイテム

エバーブレス®スノーラインビブ

厳冬期の縦走では、登り、滑り、ラッセル、ツボ足と状況が目まぐるしく変わる。エバーブレス®スノーラインビブは、シンプルな設計による軽さと動きやすさが魅力で、雪山登山からバックカントリースキーまで幅広く対応してくれる。豊かなストレッチ性のおかげで長時間の行動でもストレスが少なく、秋の立山から春のアルプスまで、毎シーズン手放せない一本だ。

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執筆者:マーケティング課 山下 良太

入社年:2021年

東北では仙台と郡山に住んだことがあります。どちらも山が近く、夏は縦走や沢登り、冬はスキーへ気軽に出かけられる、アウトドア好きには最高の街でした。日本酒やワイン、お米をはじめ食べ物も美味しく、当時の山行記録を書いていると、また住みたくなってきました。

 

※自然の中でアクティビティを行うためには、十分な装備、知識、経験が必要です。事前の準備を徹底したうえで、安全に注意してお楽しみください。
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