
■ツアーコンセプト
大井川を、海から最初の1滴となる間ノ岳山頂まで遡る。自転車とともに。
■概要
2026年GWは、大井川sea to summit をおこなった。二軒小屋からは東俣へ。大雨による減水待ちが2日、山頂前日も悪天停滞1日があったが、8日目に晴天の間ノ岳山頂に詰め上げることができた。
■アクティビティ日
2026年5月2日~2026年5月10日
金曜終業後、会社から直接17:47神戸駅新快速に駆け込んだ。スタートとなる静岡県金谷駅は、新幹線を使わず鈍行終電で行けるので、お財布に優しい。輪行本を読んだり、寝たりしている間に駅に着いた。
【2026/5/2(土)_Day1】
早朝、スタート地点である大井川河口へ向けて、自転車を走らせた。大井川は想像以上に茶色の水を轟轟と押し流しており、先が思いやられた。河口では、石浜を歩き、大井川が海に注ぎ込む場所で、海にタッチしてスタートした。

川と海の境界に自転車を浸してスタート。

太平洋を臨む。ここから漕ぎ始める。
30歳になってから、以前撤退したり構想だけあったツアーに行くことが増えた。この大井川東俣も4年前渡渉ができず撤退し、3年前一部を自転車なしで歩いた場所である。昔のツアーの焼き直しではおもしろみがないので、コンセプトを練り直した。自転車だからこそできることは何かを考え、海から山頂まで自力で大井川を辿ることにした。

塩郷ダムにて。ひたすら漕ぐ。二軒小屋までのこの辺りの道は、もう何度も走っているのでワープしたいくらいだ。出来るだけ大井川沿いの道を選んだ。

茶畑の間を走る。
Summitに向かう以上当然なのだが、基本登りである。自転車に最近ほとんど乗っていなかった後輩Oは、登坂とトンネルの無限インターバルでヘロヘロになっていた。日が暮れる頃に畑薙第二ダムについた。
走る中でいろいろな動物と遭遇した。道路にたたずむカモシカ、斜面からこちらを眺める猿たち。ダム直前で、木の上にいた黒い塊は熊だった。暗くなった畑薙ダムで、駆けていったふわふわの生き物は何だったのだろうか。野生のポメラニアンかもしれない(あまりにもそう見えたので、メンバー全員がポメラニアンと錯覚した)。

長島公園。毎度思うが、どこもかしこもダムだらけ。
【2026/5/3(日)_Day2】
夜何度か目が覚めた。風の音をクマかと思い、深く眠れなかった。
東俣林道はリニアマネーのおかげか、行くたびに道の舗装が増えている。同行者Kがザックの中でカレー粉をバーストしており、班全体がスパイスの香りにふんわり包まれていた。

東俣林道を走る。赤石沢の入り口を眺める。

担ぎはじめ。水量は少なくどこでも歩き放題、渡り放題。東俣堰堤のおかげだが、本来の水量がないのは少し寂しい。

和気あいあいと担ぎ、調子よく進んだ。

奈良田を指し示す古い看板。
上部の取水堰堤でしっかり取水されているおかげで、どこでも渡渉できた。奈良田を越えてから、少し進みが遅くなり、15時頃小雨が降り始めたので、切り上げてテンバを探した。だいぶ崩壊は進んでいるものの、東俣林道が所々残っているので、テンバ探しは比較的楽だった。タープを立てる人、薪を集める人、米を炊く人と分業して、作業を進めた。

林道跡に平らな場所を見つけやすい。
今回、雨での焚き火用として、天井拡張用の布を持ってきた。火の部分はギリギリ雨をしのげているものの、火を囲めない。もう少し大きくすべきだった。また、タープの下に煙が充満した。タープに煙突機能をつけたら、煙は逃げるだろうか。
【2026/5/4_ Day3】
深夜、予報通り12mm/hの大雨だった。朝7時頃、雨の中トイレがてら大井川を覗くと、昨日の清流がとんでもない茶色い濁流になっていた。これは最低1日、減水次第では2日停滞になるかもしれない…と思いつつ、再び寝袋にもぐりこんだ。小鳥が鳴いているので、雨は近いうちに止むのだろうか。“進まなければ”という焦りは、sea to summitというコンセプトに囚われているのかもしれない。

茶色になった大井川。
暇すぎて、同行者のKと短歌を詠もうということになった。
・衣川の句
澄青茶 表情豊かな 大井川 目指す間ノは 未だに見えず
・Kの句
布一枚 隔てし水の多い川(大井川) 岩魚を釣った 夢にまどろむ
これはKの方が歌が上手いなあと思った。時代が違えば、たいへんモテただろう。

歌人の後輩Kと濁流の大井川
激しく降っていた雨も、10時ごろに止んだので、周辺を散歩した。水量は変わらず、激しいままであった。思った以上に左岸沿いに進めそうだったので、もう昼ではあったが、皆で朝食を食べ、13時前に出発した。
川の流れからかなり離れた林道を歩いた。しばらく行くと下の方に取水堰堤が見えた。平時は横からしか放水されていないが、中央の滑り台部分も、茶色い水が幅いっぱいに流れていた。いつになったら右岸に渡れるのか気が遠くなった。もちろん取水堰堤より上流の方が水量は多かった。

東俣堰堤にて。茶色い水は堰堤一杯に広がっていた。

高度感があり、念のためゴージュロープを出したトラバース。

一日に数回は自転車に乗れる場所があった。
林道はこれまでと違い、崩落個所が少なく、順調に進んだ。15時半ごろ、林道が完全に崩壊し、右岸に渡らなければならない場所で行程を終了した。ここは3年前も渡渉に難儀した場所で、自転車をもって高巻くことはほぼ不可能であることが分かっていた。

大井川は濁流だが、晴れていたので皆気分が良かった。
米が炊き上がる頃、また雨が降り始め、いそいそとタープの下に逃げ込んだ。この日はナラタケをたくさん見つけた。火を囲みながらいろんな話で盛り上がった。豊かな時間だった。明日は減水していることを祈りながら就寝。

ナラタケと思われるもの。
【2026/5/5_Day4】
相変わらず、大井川は轟音をたてていた。水の色が茶色から灰色になったのは救いだが、到底渡渉できる様子ではない。川を見ながら散歩していると、食べられそうなシダ植物の群生を見つけた。
可能性を探るべく、ゴージュロープ2本でバックアップをとった上で、二人で肩を組んで、狙いの渡渉点を越えようとした。川幅の半分程度まではいくものの、右岸側に寄っている流心が越えられなかった。あと3歩がでなかった。
次に、橋を架けてしまおうと、4人で大きな倒木を抱えて運んだ。川幅の狭いところに4本の細長い木を使い、流心を越えられる橋はかかった。しかし、行けても空身でしか行けない程度に細く、最後は飛び越える橋であり、不可逆な行為になってしまうため、もう一晩、減水を待とうということになった。
全く進まない一日だったが、この日も美味しい晩御飯だった。
風もなく、本を読んだり、おしゃべりしたり、緩やかな時間をすごした。自分は紅茶、スキムミルク、ザラメでお湯をひたすら飲んでいた。同行者達はプロテインを酒のように回し飲みしていた。水線ギリギリのところにいくつかケルンを作り、減水度合いが分かるようにして寝袋に入った。
【2026/5/6_Day5】
減水しているか心配であまり眠れなかった。水量はあまり減っていなかったが、濁りがずいぶん取れていた。空は曇天。昨日は候補にならなかったラインが、濁りがとれたことで見えてきて、2日ぶりに右岸に渡った。右岸に渡ったはいいものの、左岸に戻れず、なかなか難儀した。腰まで浸かってへつることになったが、上流に渡りやすい場所があり助かった。

ようやく左岸から右岸へ。肩を組んで渡渉。ゴージュロープは2本持っていき、上流側と下流側でかけた。

右岸をへつって上流へ。濁りはだいぶ取れたものの足元が見えないのは怖い。

左岸に戻る渡渉。
左岸の林道は途中から崩壊したが、立派な橋が遠くに見えたので、それを目指して歩いた。橋を渡ると林道は川から離れ、山の中へと入っていった。

林道が消滅したので、しばらく斜面を担いだ。

立派な橋だった。
東海パルプの廃屋群の場所に出た。ここは3年前来た時から変わらない。休憩がてら建物内を外から覗き見ていると、昭和54年の狩猟読本があった。

東海パルプ広場。

昭和54年の狩猟読本。

絶妙に引っかかっているトラック。
広河原では、水量も落ち着き、どこでも渡ることができた。小さな支流の側で、岩の下に逃げ込んだ岩魚が見えた。手づかみで取れた瞬間の喜びは手の中の感触からも「捕れたー!」と叫ぶほど絶頂なのだが、ほとんどが触れる間もなく逃げられてしまう。

穏やかな河原歩き。
新蛇抜沢を越え、地図上でゴルジュになる場所まで進んだ。林道の残骸が上の方に見えたので、15時前だったが行動を終えた。いつも通り、米を炊き、味噌汁を作り、夕食を楽しんだ。

新蛇抜沢を越えると川は少し狭くなった。
【2026/5/7_Day6】
標高が上がったのもあるが、天気が良く放射冷却で、夜は急激に冷え込んだ。シュラフカバーの上から輪行袋とツェルトをかぶった。ポリゴンヘリオスも持ってきてよかった。荷物を多少増やしてもいいなら、ヘリオスはあって安心な保温着である。同行者のKは朝3時から寒くて寝られなかったと言っていた。進みすぎるとテンバがなくなるため、太陽が昇り、暖かくなった9時ごろ出発。

水は透明で透き通り、見た目の通り冷たかった。太陽にテンションが上がって行水もした。

魚留の滝にて。滝の上にも岩魚はいた。
調子よく進み、昼過ぎ13時には魚留の滝を越えた。3年前は越えたあたりから雪渓が出てきて、水も冷たくなったが、今年は残雪が全くなかった。滝の上を少し行くと、日の当たる芝生のような場所があったので、30分以上そこで昼寝や読書をして休憩した。魚止めの滝という名前ではあるが、上でも魚影が走っていた。
少しずつ沢は狭くなり自転車も邪魔に感じるが、悪い場所はないので、16時頃三国沢と農鳥沢の出合いについた。流石に後半は雪が出てきて、踏み抜き地獄だった。

お昼寝。太陽が出ているときはちょうどよく暖かい。

標高と雪を感じつつ。
標高が高く冷えたのもあり、それなりに疲労感があった。冷たい風が吹き抜けていたので、タープを地面ギリギリにつけるようにして張り、横方向は輪行袋で閉じた(不完全ではあるが)。タープの横をピタッと閉じられる輪行袋を商品に…、需要はなさそうである。

晴れていて間ノ岳方面が良く見えた。北岳まで繋げて…などといろいろ皮算用していた。
【2026/5/8_Day7】
山頂に向かう日だと気合を入れて、珍しく4:30に起き一人火をおこし、米を炊いていたが、炊き上がる頃に雨が降り始めた。雨脚は強くなり、停滞することになった。本を読み、昼寝。天気は回復せず、断続的に雨は降り続けた。
輪行本として持ってきた本多勝一さんの『カナダエスキモー』を読み終え、梅棹忠夫さんの『狩猟と遊牧の世界』も読み終えた。本は停滞しているときが一番集中して読める。
13時頃にも本降りの雨。天気予報から隔絶されているので(ラジオを持ってきてもよかったなと後悔)、明日晴れるのを祈ることしかできない。

昼の11:36に撮っていた写真。輪行本は皆様々で、TOEIC問題集やサスペンス小説、星野道夫さんなどもあった。
夕方ごろ、雨が止み、太陽が見え始めた。夕食は各自行動食で済まそうと話していたが、太陽を見ると皆元気が出てきて、米をいつもの1.5倍炊いた。日程的にも明日山頂を越えなければならないので、予備の米もつぎ込んだ。しかし、食べ終わる頃にまた雨が降り出し、19時ごろ再び本降りになってしまった。明日は晴れてくれと心から祈った。
【2026/5/9_Day8】
夜、風が吹き荒れ、変形したタープがバチバチと顔に当たり何度も起こされた。森林限界よりも上でタープを張るとどうなるか身をもって理解した。ウツラウツラとしながら3時半に起きた。爆風で暴れるタープを荷物で押さえながら、シュラフから腕だけ出してガソリン火器をつけた。プレヒートで暖をとるが、テントとは違い、風が吹くと暖気は一瞬でどこかへ行ってしまった。米が炊けたころ皆をおこし、お湯をのみ準備をすすめた。
祈りが通じたのか、外はガスが切れ始めていた。1日停滞した甲斐があった。タープを撤収し6時前出発。氷点下だったようで、ペットボトルの水は凍り、凍った沢の岩は黒々と光っていた。

ラバー沢靴と相性の悪い凍った岩。

水量は減り、源頭の雰囲気。
沢はいよいよ狭くなり、雪で埋まり始めた。景色が開けてくるとともに、雲も去っていった。雪渓に覆われたところでアイゼンをつけて、割れているところを避けながら進んだ。水流が確認できた最後の穴の部分を、大井川最初の1滴として集合写真を撮った。

アイゼンをつけて登った。

最初の1滴認定した場所。

雲が切れてくる。
同行者がアイゼンでタイヤを踏んでしまいパンクさせるトラブルもあったが、順調に雪を繋いで登っていった。アイゼンの効きがたいへんよくサクサク登った。空気は薄くなり、斜度も上がって皆しんどそうだった。

間ノ岳を目指して雪を繋いだ。

アイゼンのかかりは良く、歩きやすいが、斜度がきつくしんどい。
山頂ダイレクトとはいかなかったものの、かなり近い場所まで伸びている雪渓を繋ぐことができた。そして山頂へ。大井川sea to summit間ノ岳を全員揃って最後までおこなうことができた。山頂で強く握手を交わした。よいツアーだった。

間ノ岳山頂にて。晴れて良かった。360度の展望が広がっていた。

下山にとりかかる。
南アルプス林道は自転車通行禁止のため、登山道を担ぎ続け下山した。町まで下りて”つめた~い”しかない自販機に文句を言うことができたのは深夜だった。翌日5月10日茅野まで走り、鈍行で神戸へ帰った。

最後は暗い中歩いた。


行程概念図
出典:国土交通省「大井川流域図(参考資料3-1)」([chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/060831/pdf/ref3-1.pdf])を加工して作成)

ゴージュタープ
テントよりも使っているアイテム。雨の日はこの下で焚火をしてしまうので、全体的に色が変わってきており、所々に空いた穴の補修箇所も増えてきた。しかし、それすらも愛着を感じる。長く使える良い製品。

ゴージュロープ25m
渡渉バックアップ用に持って行った。渡渉だけではなく、雪渓でのお助けロープや、タープの背骨としても活躍。軽く、水をふくまず、凍らず、汎用性の高いロープ。スキーでも沢登りでも欠かせないアイテム。

執筆者:商品開発課 衣川 佳輝
入社年:2022年
自転車から山に入りました。担ぎもします。最近は同僚と沢に行くことが増えました。プロフィール写真はケニア山レナナ峰にて(2022)。ナンユキの町での情熱的な出会いは、残念ながら(?)なかったです。