DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

マルチアクティビティプレイヤー: 丹羽 薫

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8月5日、ヨーロッパ遠征の初戦で訪れたノルウェー・トロムソーで開催されたスカイレースでのことです。20キロ地点で転倒し左手首を骨折し、突然のリタイアとなりました。フランスのシャモニーで開催されるUTMBまで、4週間。レースをあきらめて帰国することも、現地でトレーニングすることもせず、選択したのは、ノルウェーにとどまり大自然の中で友人と過ごすことでした。

今回のヨーロッパ遠征は、このトロムソーでのレースから、フランスのシャモニーで開催されるUTMB、スコットランドのグレンコーで開催されるスカイレースと続く予定でした。
7月末から現地入りしてコースの下見などをし、万全の状態でレースに挑んだのですが……いきなり骨折してしまうという事態に、周囲も自分自身もどう対処して良いのか戸惑いました。

「もう骨折したらこの後のレースは無理だし、すぐ帰ってくるんでしょ」
というのが周りで一番多い反応だったと思います。
私自身は「骨折してもすぐ治るだろう、UTMBは問題なく走れるだろう」というのが最初の考えでした。

ところが診察してもらって先生の話を聞いてみると、4週間ではギプスがはずれるかどうかで、全治6週間。
UTMBを走るにしてもトレーニングなしには走れませんし、最初のころは少しの振動でも痛くて
「こんな状態でトレーニングなんて出来るんだろうか?」「いつから走れるんだろう?」
と不安ばかりが募りました。

そんななか、とにかく帰国はせず、トロムソーのレース後に行くことにしていた同じノルウェーのボードーという都市にある友人宅へ移動。
1週間、色々お世話になりながら考える時間がありました。

色々お世話をしてくれたり、楽しいことを考えてくれる友人を前にすると、弱気な姿や落ち込んでる姿を見せて心配かける気持ちにはなれず、気楽なふりをして一緒に色々楽しむことに専念しました。

骨折には振動が良くないのでしばらくは全く走れません。
なのに友人は「今日は仕事から早く帰ってくるから(定時が15時)山にご飯持っていって、山で晩ご飯食べようね!」と。
「そうだった! 走らなくても山の楽しみ方は色々あるんだった」と思いました。

一応釣り竿も持っていって、湖で釣りをしながら、ソーセージを焼いて食べたりして、のんびり魚が釣れるのを待ちました。
週末には、湖のある森に遊びに行きました。友人は泳いだり、私はブルーベリーやクラウドベリーをたくさん摘んだりして楽しみ、家に帰るとブルーベリーパイを作ったり、クラウドベリーとアイスクリームでデザートにしたりしました。

はじめの頃、このクラウドベリーというのが、ブルーベリーのようにうまく見つけられませんでした。
そのうち、どういう条件の所に群生してるかが分かってくると、たくさん採れるようになってくるのですが、それでも、葉に隠れていて見えなかったりしてなかなか難しい。
例えば、ある方向からひたすら摘んで「もう摘み尽くしたな」と思った後、反対の方向からその場所へ戻ってくると、あれ!? 違う角度から見るとまだまだ食べ頃なクラウドベリーが見つかるのです。

別の日にもたくさんの友人たちと山に行きましたが、クラウドベリーを摘むたびに、これを経験して、考えさせられました。
物事は一つの角度や視点から見ているだけでは見えてこなかったことが、別の角度から見ると、見えてきたりすることがあるんだなぁと。

私は骨折してしまった。
最高の状態で挑みたかった世界最高峰の100マイルレース・UTMBにも、出場したとしても、もはや万全とは言えない状態で出ることになる……。
でも、別の角度から見れば、春に走ったアンドラのレースの後、実は免疫力が凄く下がって、皮膚炎や鼻腔内の炎症、口唇ヘルペスなど色々疲れのサインが出ていたのに無視し続けてトレーニングしていた私に、神様がお休みをくれたんじゃないだろうか、と。
ここノルウエーでの休息が、UTMBにいい効果をもたらすんではないか。あまり悲観せずに、今できることを最大限やって、そして楽しんで明るい気持ちを保つことが重要かもしれないな。そんな風に思えるようになりました。

これが功を奏し、UTMBでは世界のトップランナーと肩を並べ、4位入賞することができました。

ノルウェーで学んだことは、もう一つあります。

ノルウェーは大変雨の多い国です。しかし傘をさしている人は皆無といっていいほどいません。彼らはアウトドアアクティビティが大好きで、みんなサイクリング、ランニング、釣り、カヤック、スキー、スケート、ハイキング、キャンプやトレランなどを日常的に楽しんでいます。ですが、雨だから遊ばないとなると、外で遊ぶ日がなくなってしまう。天気予報も外れやすく、晴れていると思っても、突然雨が降り出したりというのは良くあるそうで、実際、私の滞在中も1日中晴れていた日は1/3もないくらい。

だから、彼らは仕事に行くときでも遊びのときも、みんなレインウエアを持ち歩いています。しかも山で使えるような高機能のちゃんとしたものです。
そして突然雨が降り出したら、みんなレインを着て歩き、自転車に乗っています。近所の公園では幼稚園の子供たちが、レインウエアを着て土砂降りの雨の中で楽しそうに遊んでいました。付き添っている親の方が大変だなと思いましたが、子供は雨なんてお構いなしです。

こうして育ったノルウェーの人々はこう言います。
「Bad weather doesn’t exist here, but bad clothing exists.」
(ここでは悪天候は存在せず、悪いウェアリングが存在するだけだ)

なるほど、悪天候にひるむことなかれ。
彼らは悪天候の時はそれに見合ったウェアリングで、悪天候でも安全に遊べるルートで山に入ったり、森に変更したり、釣りに変更したりと工夫をしてとにかく自然を満喫します。天候も自然の一つなのです。

ウェアリングをちゃんとすれば、悪天候でもひるむ必要はない。大丈夫。
それを学んだおかげで、UTMBが悪天候予報でコース変更やスタート時間の変更が告げられても、うろたえる気持ちは全くありませんでした。むしろワクワクしました。
そしてエバーブレスレグンを使用し、ラピッドラッシュグローブエバーブレストレイルグローブを使用して、雨や雪を乗り越えることができました。

ノルウェーで骨折し、予定より長く滞在することになりましたが、そのおかげでノルウェーの自然から多くを学ぶことができ、有意義な滞在となりました。

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マルチアクティビティプレイヤー
丹羽 薫

国内外の大自然と会話をしながら、マウンテンランニング・登山・バックカントリースキーと、その瞬間のベストな遊びで「完全な自由」を探求するマルチアクティビティプレイヤー。
その活動は同性から高い支持を集める。
また自他共に認める愛犬家の一面も。

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