昨年夏、「常念山脈+表銀座周回」の遊び記録は、多少の反響をいただいた(辻本独自調べ)。
その締めくくりに「馬場島から上高地まで歩きたい」と呟いてから、はや1年。
今年に入って、初マラソンと100mileレースを完走し、体力もアップした(ハズ)。
舞台は北アルプスの名峰をつなぐ、2泊3日のファストパッキング。
今回、マイルールは3つだけ。
① 16時までにテント場へ到着
② 山小屋では水以外の購入禁止
③ 走らない
お盆前半に山行計画をしていたが、天気は壊滅的。
後半へスライドさせたところ、予報には3日間とも晴れマークが並んでいる!
雨男の私にとって、奇跡の夏山登山が始まろうとしている。
■アクティビティ日
2025年8月15日~8月17日
DAY1 馬場島~五色ヶ原
夜明け前の3時起床。
これから始まる3日間の山旅に遠足前日のようなワクワク感であまり眠れなかった。
馬場島の標高はおよそ750m。まずはここから2999mの頂を目指す。
まさに今回の山旅を象徴するセリフ
うっそうとした樹林帯の急登を登り、やがて空が明るくなってきた。
左手には東芦見尾根が見え、まだまだ続く登りに気合が入る。
あの稜線もいつか登りたい
急登で知られる早月尾根だが、整備されているおかげで登りやすく、自然とペースが上がる。
いい天気だな
早月小屋に着いた頃にはすでに日差しが強く、多くの水分を摂取した。
振り返ると富山湾を一望
なんだか怪しい天気・・・
テント場を過ぎ、岩場の取り付きに差し掛かったところでヘルメットを装着し、心の手綱を握る。
標高2500mあたりからガスが立ち込め、視界が悪くなったが鎖場の緊張感を楽しみ、越えていく。
ここからが本番
難所を乗り越え、山頂へ到着するとたくさんの登山者で賑わっていた。
アウェー感満載なので写真を撮ったらすぐに出発。
背景は合成の如く真っ白
カニノヨコバイでは、ビビりながらなんとか通過。
恐怖の始まりデス
ガスっているのでそこまで高度感ナシ。とはいえ最初の一歩が怖い
緊張して手汗で滑る
ずっと渋滞が続いたおかげで岩場を慎重に進むことができた。
ガスに包まれ、なかなか晴れない
ここまで来れば一安心
剣山荘に着くとホッと一息。水をたっぷり補給し、雄山へと向かう。
標高3000m近くまで上がると再びガスに覆われ、冷気が身に染みる。
別山付近から霧雨が降り、レインを羽織る登山者が増えてきた。
いったい晴れ予報はどこへ・・・
こんな天候なので稜線上は人が少なかったが、雄山神社に着くと一転して大勢の人でごった返していた。
今回は参拝せずここから手を合わせる
休憩中、隣から漂ってきたウインナーのジューシーな香りが脳ミソをガツンと直撃。
誘惑を振り切り、平静を装いながら補給食を摂取した。
一ノ越までの下りは渋滞のため時間がかかったが、一ノ越を過ぎると一気に静けさが戻った。
あっちに行けば楽園が待っている
時間的にここから先は人がいなくなることは分かっていたので、再び静かな山歩きを楽しむ。
時おりガスの切れ目から峰々が織りなす景色に何度も立ち止まり、カメラを構えるのでなかなか進まない。
本日はどの山頂も真っ白
しばらく歩くと黒部湖が見えてきた。
やっぱり下は晴れているね
ここからザラ峠まで延々と続く約350mの下りと、登り返しにちょっとした絶望感を味わう。
躍動感を感じる
長丁場の身体には堪えたが、木道が見えた瞬間の安堵感はひとしおだった。
ありがとうございます!
やっと小屋が見えた
予定通り16時前に五色ヶ原へ到着し、ツエルトを設営。
木道とテント場の雰囲気に癒される
絶好の場所に張れた
周囲には宿題中と思われるシェルターが5~6張りあったが、さすがにツエルト1は見当たらなかった。
夕暮れ時、山々を眺めながら夕食を楽しんでいると雨がぽつぽつ降り出し、やむなくツエルト内で待機。
結局1時間ほど大雨に打たれ、床上浸水は免れたものの濡れた装備を見て気分が滅入り、早めに眠りについた。
DAY2 五色ヶ原~三俣山荘
3時起床
周りは身支度を始めており、すでに何組かは出発していた。
今日は3日間の中でゆとりのある行程のため4時出発。とはいえ長丁場だ。
雨は降っていないがガスが濃く、視界が悪い。濡れた木道や岩は滑りやすく、気が抜けない。ふとハイマツからガサガサッと音がしたので振り向くと雷鳥が姿を現した。
おはよう!
暗闇の中、熊かと思ってドキドキした。
前方にはどっしりと薬師岳が構え、その頂までのアップダウンを一望。
夜明けとともに薬師岳が姿を現した
手書き感がいいね
スゴ乗越小屋とテン場を探せ!
スゴ乗越小屋に到着。すでに登山者は出発した後だったので、ベンチに腰掛けて静かな時間を楽しんだ。
長閑に過ごす時間は贅沢そのもの
ここから薬師岳まで長い登りが続く。標高差にして約600m。昨日からの疲労が重なり、北薬師岳までの登りは長く感じた。
過去にこの縦走路を歩いたときは、五色泊→スゴ乗越泊→太郎平キャンプ場泊という余裕ある日程だったことを思い出す。当時、偽ピークに何度も騙された経験から現在地を確認しながら気持ちを切らさないよう登り続けた。
ようやく北薬師岳に着くと、ガスの切れ目から薬師岳が姿を見せる。
ここまで来ればあと一息
ごつごつした岩の上を軽快に歩き、薬師岳山頂に到着。
タイミングよくガスが抜けた。日頃行いに感謝。
絶景とはいえないガス交じりの景色だったが、それでも胸を打つものがある。好物のカロリーメイトを頬張りながら地図を広げて次の目的地を確認。太郎平キャンプ場は豊富な水場があり、キンキンに冷えたうまい水が楽しみだ。標高を下げるにつれ蒸し暑さが増すが、沢沿いなので幾分マシだった。
太郎平キャンプ場に着くとテント泊者で賑わっていた。
(※ 2025年9月現在、ツキノワグマによる事案のため太郎平キャンプ場は閉鎖中。必ず最新情報を確認してください)
ここで水をたっぷり補給し、黒部五郎岳へと向かう。太郎平小屋までの木道は、度々振り返っては薬師岳の雄姿に見とれてしまい、余計に長く感じられた。
木道+薬師岳+青空=定番構図
楽園と思わせる景色が無数
北アルプス奥地へと続く稜線
ガスがかかっているため遠くの名だたる山々の姿は見えないが、雨に打たれるよりはマシだと自分に言い聞かせ、ようやく黒部五郎ノ肩へ到着。疲れた身体にムチを打って山頂を目指す。最後の登りはきつかったが、山頂からの景色を眺めると疲れが吹き飛んだような気がした。
薬師岳に続いてタイミングよくガスが抜けた
黒部五郎小舎と雲ノ平山荘を探せ!
百名山4座目をゲットして早々に下山を開始し、人の少ない道を軽快に進む。
黒部五郎カールは「時を忘れる」らしい
黒部五郎小舎に到着し、ここから消化試合だと油断した矢先、急に晴れ間が広がり直射日光からくる暑さで一気に体力を奪われる。「今日はゆとりのある行程♪」なんて言った自分にグーパンチを食らわせたい気分だ。
とはいえこの景色の前ではテンション上がる
ようやくお槍様とご対面
悪態をつぶやきながらも、なんとか予定通り16時前に三俣山荘へ到着。
個人的に北アルプスの中で一番好きなテント場。様々なテントを見られるのでそれだけでご飯3杯はいけるくちだ。夕食時には目の前でおしゃれハイカーとULハイカーが山談義で盛り上がっており、ギア好きの自分は聞いているだけ満足。気が付けばカレーメシ2杯とカロリーメイト6本を平らげていた。
映えとは無縁な夕食
DAY3 三俣山荘~上高地
1時20分起床
岩稜帯の渋滞を考慮して2時出発。
真夜中のハイクは涼しく、人も少ないので自然とペースが上がる。
こんな時間にだれもいないだろうと思っていたが、双六山頂に向かうヘッドライトがあり驚いた(後日、これが知人だと知ってさらに驚いた)。
双六小屋に到着すると、ちょうど人が動き出す時間帯で遠くから見るヘッドライトの光が幻想的だった。
西鎌尾根に入ると横殴りの風が吹き続けたので、ポリゴンULベストとレインを羽織る。
風が強くてブレブレ。ヘッデンだけが頼り
しばらく進むと常念山脈がオレンジ色に染まり、思わず足を止めた。時間にしてわずかだったが久々に心震わす景色に感動した。
ガスの切れ目から美しいグラデーションに感動
千丈沢乗越で夜明けを迎え、風は収まるだろうと思ったが、全くその気配はなかった。
硫黄尾根の稜線が紅く焼けてきた
笠ヶ岳方面もキレイなグラデーション
槍ヶ岳山荘に到着しても相変わらず風がビュンビュン通り、休憩すると寒さで体が冷えるので先へ進むことにした。テント場ではテントポールが撓むほどの強風で、撤収が大変そうだった。
穂先は渋滞と強風のためパス
晴れていれば槍ヶ岳から3000m級の天空の稜線が続くが、本日は強風と真っ白の世界。身体が飛ばされそうになりながら南岳に到着。
ガスを呼ぶ男。こういうときは心の眼で山座同定!
南岳小屋から先は大キレットに突入するので準備と補給を行い、再びヘルメットを装着する。
岩稜下りスタート
一歩一歩慎重にスタンスを確保しながら下る。最低コルに到着すると風は収まり、次第に晴れ間が広がってきた。
ちょっとずつ晴れてきた
風が収まり暑さが増してきたのでここで薄着になる
振り返るとガスが抜けていく
Hピークを越え、両側が切れ落ちたヤセ尾根を通過。
とりあえず記念に一枚
晴れ間のおかげで高度感は抜群でむしろ恐怖感はマシマシ。ガスがかかっていた方が下部が見えないので良かったのでは・・・と思ってしまう。
今回の山旅でお気に入りの一枚。岩稜帯の厳しさと風の躍動感が伝わってくる。
2025SSカタログ表紙ポイントでパシャリ
核心部「飛騨泣き」を越えると滝谷付近で県警ヘリが登場。救助者を捜索しているらしく、近くをホバリングしてさらに緊張感はマシマシ(私が緊張しても捜索の力にはなれないので、目の前の一歩に集中するだけなのだが)。
岩場をよじ登り、なんとか北穂小屋へ到着。
ド定番の構図
ここまでの稜線を振り返り、小さくガッツポーズ!
と言いたいところだが、個人的にはここから涸沢岳まで岩場歩きの方が苦手なので集中力を切らさないよう休憩は最小限とした。登山者が少なく、すれ違いもわずかだったのが救いだったが、ワンミス谷底直行の場所がいくつかあり、写真を撮る余裕はなかった。
奥穂に前穂、ジャンダルムが見えてきた
涸沢岳まで来れば一安心。目の前には迫力ある岩稜
疲れが出始めた頃、穂高岳山荘に到着。
夏になると毎年通った思い入れのある小屋
石畳のテラスで靴とソックスを脱いで大休止とした。ここで行動食の残りをチェックすると、思いのほか余っていたので大量のカロリーメイトを頬張る。あとは奥穂を越え、上高地まで下山するだけだ。
まさかの晴れ時に雷鳥と遭遇
最後のピークである奥穂に着くとこれまで越えてきた峰々を見つめながら思いを巡らせる。
今回、百名山5座目。一番天気良い
早朝からの行動で疲労が見えてきたが、重太郎新道の下りは重大事故が発生しているので気を引き締めて進む。
昨年歩いた常念山脈の山行を思い出す
しっかり整備された道だが、岩場の激下りにヒザが疲弊。標高を下げるにつれ蒸し暑さで汗が噴き出す。
河童橋を探せ!
所々休憩を挟みながら岳沢小屋に到着し、ヘルメットを外してようやく緊張感から解放。
時計を見るとお昼時だったのでここでも大休止としたが、テラスは外国人でいっぱいで、まるで異国に来たようだ。終わりが近づくにつれ3日間を振り返り、次はどこからどのルートを歩こうかとニヤニヤ構想する。やがて山の静寂から一転、観光客で賑わう上高地に辿り着いた。
山旅の締めくくりはこの景色と共に
ここまで岩稜や稜線を越え、ガスと晴れ間の表情を見せる山々、そして息をのむような絶景の連続だった。
計画や準備の大切さを改めて実感する旅でもあった。
そして何より、こうして無事に下山できたこと、支えてくれた家族の存在に、心から感謝している。
かっぱ橋と梓川を眺めながら残りのカロリーメイトをすべて頬張り、私の山旅は静かに幕を閉じた。
来年はこの道を歩むと信じて。
全長92km 9500mD+
ツエルト1
ファストパッキングには欠かせない、超軽量・コンパクトなシェルター。
室内は広くないし、雨風にもやや弱め。正直、「贅沢は言えない」感じだが使いこなせば軽さと携帯性で強力な武器になる。
「足るを知る」を意識して装備を削ぎ落とすと余計なものに頼らず、自然との一体感を味わえる。
小さくても侮れない、私の心強い相棒だ。
執筆者:販売促進営業課 辻本 浩久
入社年:2023年
今年6月にTAMBA100mileを完走した後、坐骨神経痛に悩まされていたが、アルプスに通うと回復傾向に。もしかすると私は好山病かもしれない。