
さて、世の中には、西暦と同じ標高の山に登る「西暦登山」というものがある(おそらく)。
では、2025mの山とは一体どこなんだろう?
そんな素朴な疑問が、北股岳を目指すことになるきっかけでした。
■アクティビティ日:2025年12月28日~12月31日
「2025年への年越しを2025mの山で過ごせたら最高に楽しそう」
ふと、そんなことを思い調べてみると、どうやら該当する山は、鶏冠山と北股岳の2つがあるらしい。
鶏冠山は以前沢登りで近くを通ったことがあり、あまり厳冬期に行くというイメージは湧かなかった。
北股岳については、恥ずかしながらこの時に初めて存在を知った。どうやら飯豊連峰の山で、年末年始には殆ど登頂記録が無い。
「これは面白そうだ」
早速準備をして向かったが、昨年のトライでは年末の大雪を食らい、激ラッセル。また、コンセプトの一つでもあった雪洞泊で装備がびしょ濡れになり、主稜線手前で早々に敗退した。

昨年は、雪洞力が足らず散々な結果に。
一年が経ち、今年の年末はどうしようかと考えるが、どうしても昨年やり残した「宿題」が頭から離れない。
今年こそ、2025年が終わる前にどうにかしてやり遂げてやろう!そんな想いがふつふつと湧き上がり、今年もまた飯豊連峰へ向かう事となった。
今回は昨年の計画をベースに、軽量化よりも安全性を重視し、ガス缶や食料は過剰なくらいに持ち込んだ。結果として、これが功を奏すことになる。
12.27
神戸から丸一日かけ飯豊入り。
深夜割引のリミットを5分超過して逃してしまい、車内で1人発狂する。北陸道、東北道は雪が多いため、安全運転でのんびり向かう事にする。
12.28
重量感のあるご飯をギリギリにお腹に収め、いざ出発。
除雪車の雪捨て場から入山し、西俣ノ峰登山口まで歩く。
初めて来たときは、本当にここが入山点なのか不安になったくらい何も無い雪原だ。

前日からかなりの降雪があり、スタートから終始膝〜太腿ラッセル。他には人が入っておらず、先頭でのラッセル。ラッキーだ。
積雪はあるが、去年よりは少なく感じる。

尾根の末端で改めて気を引き締め、登山開始。
時折、胸丈ほどの雪を掻き分け急登を進む。昨年は見かけなかった鎖場があったため、やはり雪は少ない様子。
ちなみにワカンでそのまま岩場を登るのは、あまりおすすめしない。

2時間ほどかけ、ようやく標高530m付近の尾根に乗る。
ここから迷うことは無いが、ひたすら標高を上げていく作業が続く。自分の力だけで山に登れるのは嬉しいことだと思いつつも、やはりラッセルは辛い。9時頃からは降雪が止み、晴れ間が見えてきた。

明日が最も天気がよい予報のため、できる限り高度を上げておきたいが、新雪の影響でなかなか進まない。結局、14時に西俣ノ峰、16時前に尾根の途中を整地しテントを張った。

できる限り今日のうちに進んでおきたい気持ちと、暗くなる前に整地しなければという思いで十分な補給をせず行動してしまい、テントに入った頃には低血糖でふらふらになってしまった。
最低限の水づくりをして就寝。先が思いやられる。

12.29
今日は、天候的にはベストコンディションの日。だが身体は、昨日のダメージであまり調子は良くない。早朝に人の声がした気がしたが、気のせいかと思いのんびり準備する。
テントを撤収し、いざ歩き出すとなんとトレースが。朝のそれは幻聴ではなかったらしい。スノーシューのようだが有り難くトレースを使わせていただく。昨日とは打って変わって明らかに進みが速い。

1470m、三匹穴という辺りで先行者の方とご対面。もう既に頼母木山のピークを踏み下山中の様子であった。
自分のスタートが遅かったなと少し反省。トレースのお礼を伝え、簡単に情報交換して先へ進む。

1年前の写真。以前はここの少し手前で雪洞を掘り、敗退した。
1500m辺りからは、風に吹かれて雪面が固まっており歩きやすい。夏山の0.8倍速くらいでは歩けていた気がする。

そこからはサクサクと進み、山頂直下でアイゼンとハードシェルを着用。無事、飯豊主稜線上の山、頼母木山(たもぎやま)に到着。

頼母木山の山頂
初めて主稜線上に立ったが、想像通り風が強い。多少の感動を覚えつつも、記念撮影をして先を急ぐ。
飯豊の稜線は、基本的に日本海側から風が吹き付けており、今年の少雪と相まって一部の岩や低木が露出していた。雪も吹き飛ばされてしまうため、ラッセルはあまりなく、比較的締まった雪を歩けた。先シーズン行った鹿島槍ヶ岳の稜線に近い印象だ。

雪庇も予想よりは発達しておらず、ホワイトアウトしても足元の木と石を辿れば、雪庇を踏み抜くことなく安全に帰れるだろう。そんな事を考えつつ、地形を観察しながら進む。

頼母木山は標高1730m、本日の目的地である門内岳が標高1887mなので、アップダウンは少ない稜線歩き。
良コンディションな事もあり順調に進み、地神北峰〜地神山〜胎内山〜門内岳と歩を進めた。

幕営予定の門内小屋到着時点で13時台であった。目的の北股岳はすぐ目の前。最小限の装備でアタックすれば1時間で登って30分で下山できるだろう。
日本海側からは、黒みがかった雲がだんだんと近づいてきていた。この稜線では悪天候やトラブルにあっても雪洞を掘るほどの雪はない(切れ落ちた雪庇を乗っ越せば別だが)。テントを張っても強風には耐えられないだろう。

であれば、視界が悪くても帰れる地形であることを活かして、好天の今日のうちにスピード勝負してしまった方がいい。
そう判断して、シェルの胸ポケットに行動食と水筒、地図、携帯などを入れ、アックスを持って山頂を目指した。

今回持参したエバーブレス®プリモ。左右大型の胸ポケットに色々とモノが入って便利。
(テスト品+カメラ性能の影響により、本製品とは若干色味が異なりますので、ご注意ください。)
風は強いが上空は快晴。稜線からは景色が良く見えて気持ちが良い。
締まった雪に小気味よくアイゼンを決めながら、冬の登山を楽しんだ。
ちょっとした偽ピークに惑わされながらも、軽快に進む。
もう一つ先がピークかな、などと思っていたら、なんだか鳥居のようなものが見えてきた。

おや、あれって山頂か?
そんな事を思いながら先を覗くと、北股岳の山頂であった。
「やったーー」
とりあえず叫んでみる。とても大きな感動があった訳では無いが、自分で計画した事がやり遂げられると嬉しいものだ。時間は予想通り、小屋からジャスト1時間。

早速記念撮影をして、周りを見渡してみる。びっくりするほど周囲は山に囲われており、人々の生活からは遠い。こんな所にまで人は自分の足で歩いて来られるのだなと少し感慨にふける。

山頂でヤッホーと叫んでも、誰も返事を返してくれないし誰にも怒られない。
携帯を持ったまま歩き回っていると電源が切れてしまった。電池は十分あったので、それだけ寒かったのだろう。
ふと我に返り、そそくさと下山の準備を始める。
「ありがとう、北股岳」そんな気持ちで山頂を後にする。急ぎながらも慎重に小屋まで下山。

明日は微妙な予報だったがどうなるだろうか。万が一の際は、小屋に逃げ込めるような位置にテントを張り、念の為避難小屋の2階入口を掘り出しておく。厳冬期・強風の稜線では小屋の存在はありがたい。ただ近くにあるだけで精神的エイドになる。
テントに入り夕食を食べていると、段々と風が強まってきた。
その後、気持ちよく寝ていると、なんだか足元に圧迫感を感じた。なんだと見ると雪が半端なく積もってテントがぎゅうぎゅうに押しつぶされている。
これはいかんと、スコップを持って出るが、外はテントの背丈ほども雪が積もっていた。急いで掘り出すが、積もった3面を掘り返すと、最初の1面がまた埋もれる。これの繰り返しで、夜半ひたすらスコップを振り回す作業を強制させられた。
12.30
昨晩の除雪に戸惑っているうちに、テントのジッパーが壊れ20回に1回くらいしかまともに閉まらなくなり発狂した。学生時代から10年ほど使用したので、ハードな山行で使うにはもう厳しかったのだろう。
山行前に装備の点検はしっかりしておくと安心。これを機にカミナドームに買い替えよう。
そんな壊れたジッパーから外を覗くと、強風・降雪・ホワイトアウト。風が強すぎてテントも片付けられない。暫く様子を伺いながら除雪を繰り返す。
非常に微妙な天気だが、予報通り気温は高く、風に打たれてもそこまで寒さは感じない。降雪さえ落ち着けばどうにかなるだろうか。
明日以降の更なる天候悪化。今日主稜線を抜けられないと最速で1月2日、最悪それ以上閉じ込められることになるかもしれない。
そんな背景があり、どうにか今日ここを脱出したいという感情だけが強くなる。しかし天候は回復せず。
諦めて寝ていると、11時頃に段々雪が落ち着いてきた。気持ち視界も良くなっている。
「行くなら今が好機だ!」
急いでテントを片付けていると、手順を間違えポールを折ってしまった。最悪だ。だが、時間が惜しく、丸めるようにして本体も畳み、ザックに押し込んだ。

ホワイトアウトは変わらないが、足元の地形に気を付ければ頼母木山までは帰れる。そんな気持ちで歩き出すが、小屋から先は真っ白で何も見えない。視界は30mほどだろうか。
すぐ横の門内岳付近まで行ければ草木があるはずなのだが、そのわずか100mが遠い。右手の雪庇に注意しつつGPSを頼りに歩き出す。早々に道を逸れてしまい、軌道を修正。
登り基調になり安心していると、前方にぼんやりと建物が見えてきた。こんな場所に小屋があるはずはない。……いや、こんな所に小屋があるのは1カ所しかない。先程出発した門内小屋だ。
これがまさにリングワンダリングというやつだ。
自分が体験することになるとは、思いもしなかった。
無意識に右手の雪庇を警戒して左へ寄っていたこと、そしてバッテリーの消耗を嫌ってGPSを頻繁に確認していなかったこと。複数の要因が重なり、グルっと同じ場所を一周してしまったのだ。
ひとまず落ち着いて、今後の行動を考える。
翌日以降も天候の回復は見込まれない。一方で、現在の気象条件は行動不能というほどではない。それならば、GPSを逐一確認し、絶対に稜線から逸れないよう慎重に進むことこそが最善の安全策だと判断した。
感情を理性で抑え込み、空っぽな真っ白い空間を進む。
実際の時間はわずかだったはずだが、その一瞬はとても長く感じられた。
少し歩くと先に小さなブッシュが見えた。これで一安心。あとは、風は強いが足元の草木を目印に歩くだけ。時折耐風姿勢でも辛い時があったが、概ね風速20m/sくらいの印象。これも北アルプスに比べれば少しはマシである。
強風で満足に補給ができなかった為、胸ポケットに入れておいたマヨネーズを時折、喉の奥に流し込んだ。悪天時や長期山行では、とても有用な「飲み物」だ。
視界の悪さからくる精神的疲労と、風による体感気温の低下などで、想像以上に疲れる。

一番の難所だったのは、地神山から北東の尾根に下りる箇所。草木が途切れ、雪庇のように見える箇所を適切に判断して下りなければならない。絶対ここだ、と分かっていても雪庇を踏み抜く恐怖は消えない。
技術が発達した現代でも赤旗などは有効なので、こういった箇所では積極的に利用していきたい。
無事核心を越え、頼母木山に帰還。目的の北股岳に着いた時よりも嬉しかったかもしれない。
安全地帯の樹林帯を目指し下山を続けるが、疲れと時間切れで中途半端なブッシュ帯にてビバーク。テントを張ろうとしたがポールの修繕が上手くいかず、半雪洞にフライを被せて一夜をやり過ごした。
新雪の下は雪が硬化していたが、場所を変えたりイグルーを作る手間を嫌い、半身が収まる程度の穴に身をかがめて、やり繰りした。エアマットの上に体育座りし、身体は、ダウンが濡れないようシュラフカバーの口を縛った物を掛布団のように被せて保温した。

出発時に撮影した洞穴。フライの隙間から雪が吹き込み、最後は穴なのか何か分からなくなってしまった。
そんな状況だが、ガスと食料が潤沢なこと、装備の撥水性で思いの外、身体が冷えていないことがあり、精神的には非常に余裕があった。
深夜、窮屈さに耐え体勢を色々変えて試していると、最後のポジションが嵌まり6時過ぎまでぐっすりと眠れてしまった。
12.31
フライの隙間から外を覗くと、景色は真っ白。
ここからは天気がどうであろうと安全に降りられるため、いやいや片付けをする。洞穴からひょこりと顔を出してみると、昨日より断然視界が良い。300mは見えそうだ!

これなら早く下山できる!と若干ではあるが肩の荷が下りて、気が楽になった。
余計な登り返しが無いよう、地図をこまめにチェックしながら歩いていると、ふと下方に何か動くものが見えた。近づいてくるあれは、、「人だ!」
稜線は変わらず真っ白で、誰もこんな日に入らないと思っていたが、運良く某山岳会のパーティと出くわすことができた。お互い、情報交換をし、この先のトレースに心からの感謝を伝え下山を続けた。
昨夜のビバークで、あまり疲れが抜けていなかったこともあり、これは本当にありがたかった。降雪が続いていたため、高速道路とまではいかないが、自動車専用道くらいのスピードでそこからは進めた。

ハンガーノックにならないよう、行動食をお湯で流し込みながら歩く。やはり冬山は胃腸が強い人の方が向いているのだろう。

時間は掛かったものの、無事お昼過ぎには麓の入山点まで降りる事ができた。
悪天候には見舞われつつも、概ね計画通りの日程で歩き通せたのは収穫でした。また、食料や燃料の余裕が「心の余裕」に繋がることを改めて実感しました(悪天候が見込まれたため、数日間停滞できる予備を持参)。
今後は軽量化によるスピード重視と、状況に応じた装備の厚みのバランスを上手く切り替えていくことが課題になりそうです。
私は、元々フリークライミング出身で、沢登り、アルパインなどを経て、縦走登山にたどり着いた現代っ子クライマー。そのため、一瞬の難しさには多少の自信があるが、クラシカルな体力・生活力系のルートにめっぽう弱いというのが弱点でした。今回の山行は、少しでもそんな自分の苦手分野にトライしたいという思いもあり計画したものです。
まだまだ、更なるトレーニングが必要ですが、だんだんと山を楽しめるようになってきた気がしています。これからも安全に気を付け、自分の限界を押し広げるような面白い挑戦をしていきたいです。
2025年に2025mの山登ったぞーー!
(完)

エバーブレス®プリモ
強風・湿雪の飯豊連峰でも、十分な防風性と撥水性を発揮し、山行をサポートしてくれた。生地がしなやかで透湿性も高いので、歩き主体の山ではとても快適。
また、胸ポケットの容量が大きく、保温ボトルやオーバーグローブなどがスッキリ収納できる点も使い勝手が良い。

ポリゴンミトン
グローブの上からサッと装着でき、「濡れ」に対する耐性が非常に高い。
今回は稜線に出てから下山まで、ほぼ全ての時間で着用していた。
低温下での稜線歩き、ラッセル、雪かき、雪洞づくり、などなど冬山では持っておくと役立つ便利なアイテムだ。

執筆者:マーケティング課 濵田 将大
入社年:2024年
最近は、スキー技術の向上を目指して特訓中。
板を担いでクライミングをして、綺麗なラインが描けたら気持ちいいだろうなと想像し、日々練習に励んでいる。
毎週末山に出かけてはいるが、未だに山登りが好きなのかは分かっていない。