DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

投稿者: 松浦 和史

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スタッフの遊び記録
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「冬の北鎌」
何とロマンに満ちた響きなんだろう。
孤高の人・加藤文太郎や劇的な最期を迎えた松濤明、名だたる山屋を飲み込んだこのルートに、今私も挑もうとしている。
北鎌は私を受け入れるのか。期待と高揚、少しの不安の混ざり合った衝動が私の心に巣食っていった。

■アクティビティ日:2025年12月26日~12月30日

12/26 葛温泉-湯俣山荘
長い旅の幕開けだ。しんしんと降り積もる雪のなかを、ただ前だけを見て歩く。年末から年始にかけて天候が荒れる予報だったため、少しでも前に進む一心で歩く。徹底的に軽量化を施しつつも、最大6日は停滞出来るだけの食糧を担いできた。ザックは一人当たり約25㎏。背負い慣れたガッシャ・ブルムはじんわりと肩に食い込んだ。


葛温泉ゲート。緊張はさほど無く、冬メロを口ずさむことに没頭していると時間が一瞬で流れていく。

高瀬ダムは湖面に僅かな揺らぎも見せず、眠ったようにたたずんでいる。例年は、クリスマス寒波なるものにぶち当たる時期であり、激しいラッセルを覚悟していた。しかし、今年は全くと言って良いほど、雪が降らなかった。早いペースで歩みを進めていき、日暮れとともに湯俣山荘へたどり着いた。何かに導かれているかのような感覚だった。

12/27 湯俣山荘-P2
早々に水俣川の渡渉が始まった。水量は少なめだろうか。先行パーティのトレースがあったが、とてつもない高巻きを繰り返していた。


水俣川の渡渉。今回は合計12回の渡渉を余儀なくされた。序盤でバランスを崩し、川底に手を付いてしまい、テムレスが一瞬で凍りついた。

昼過ぎにP2(ピーク2)尾根取り付きに到着した。過去の記録なんかを読んでいると、私の中でP2尾根は全くの序盤に位置づいていたのだが、既に充実感が半端ない。休憩を取ってまったりしたくなる気持ちを抑え、登攀装備を身に着け尾根に取り付いた。登るにつれて傾斜は増していき、コンテ→スタカット(2ピッチ分)と徐々に移行していった。終盤は垂直部分もちらほら。「滑ったら終わりだなー、怖い、怖い」などとブツブツ呟きながら登り進める。


見た目以上に傾斜がある斜面。緊張が続く。

P2に到着して幕営していると、下から一人の登山者が上がってきた。若い男性で、ソロで来たという。今の自分からしたら、背負うリスクがあまりにも大きいように感じてしまうが、それも経験の積み重ねで克服できてしまうのだろうか。
この日は放射冷却による冷え込みが激しく、殆どまどろむだけの一夜を過ごした。

12/28 P2-天狗の腰掛(P9)
長い夜が明け、いよいよ北鎌の懐に分け入っていく一日だ。今日が過ぎれば、もう穂先を越えるという選択肢しか残されていない。気合を入れて歩き始める。北鎌尾根は激しく隆起したピークが幾重にも連なり、芸術的な美しさを纏う尾根だ。技術的難易度がそこまで高くなくとも、ワンミスが命取りとなる急斜面や岩稜が永遠と続く。そのため、緊張を緩和させる余裕が無く、心身ともに疲弊していく。緊張感を持ちつつも、このような状況を純粋に楽しむ自分がいた。


P4辺り。急上昇と急降下を繰り返す。


急激な北鎌尾根に揉まれるクライマー

またこの日の終盤には、シュガースノーを纏った傾斜の強い雪面に苦しめられた。アックスもアイゼンも効かず、雪はそのすき間をサラサラと流れ落ちていく。そのため、四肢に体重を分散させる、雪を大きく抱え込むなどしてじりじりと進んでいかなければならないのだが、どうも上手くいかない。自分の登りのあまりの遅さに辟易しながらも徐々にコツを掴んできた。これもこれで、新感覚で楽しいな、などと思い始めていた矢先で、天狗の腰掛にたどり着いてしまった。
この日も寒さで寝ては覚めるを繰り返す、長い夜を過ごした。


15時頃天狗の腰掛に到着。シュガースノーと戯れ、疲労困憊。


幕営内は極寒。暖かいのは保温着の内側くらいだが、そこはもう靴下やグローブ、乾かすもので埋め尽くされている!

12/29 天狗の腰掛(P9)―槍ヶ岳(P15)―槍ヶ岳山荘
正念場の一日。明日以降の天候は悪く、今日肩の小屋まで抜けることができなければ、北鎌に閉じ込められる。
審判は北鎌が下すだろう。私はただ、目の前の一挙一動に全力を尽くすのみだ。


独標下部のルンゼを登攀

10時に独標に着くと電波が入り、在京の仲間からの天候報告を受信した。入山前の予報から悪化傾向で、午後から荒れるようだ。しかし、午後になり雲が湧き始めても、日は依然として差しており、好転に恵まれた。


北鎌のコル手前の懸垂ポイント。独標から北鎌のコルまでは想像以上に長く、おまけに緊張感のあるクライムダウンが連続した。

15時に大槍基部までたどり着き、ようやく周りが白み始めた。凍えるような寒さだったが、それも2ピッチ耐えてやり過ごした。


槍の穂先を登攀中。ビレイ中は震えが止まらない。

ついに穂先の祠に到達した。山頂に着くや否や、吹雪が辺りを駆け巡り、登頂の余韻に浸る間も無かった。しかし、私は自然と雄叫びをあげていた。これが叫ばずにいられるか。冷えて乾いた空気に触れ続けた喉が焼けるように痛む。それでもいい。私はやり遂げたのだから。痛みはすぐに私を現実に引き戻し、急いで下山を始めた。
辺りは暗闇に包まれ、毎秒荒さを増す吹雪の中、死に物狂いで冬期小屋に転がり込んで、初めて登頂の実感が湧いてきた。まだ安心するのは早いが、もう大丈夫だ。そんな気持ちにならずにはいられなかった。
その夜は静かな小屋の中、久しぶりにまともな睡眠をとることができた。


集合写真を撮る余裕は無し。祠の真裏に登り詰めたときの高揚感は何物にも代えがたいものだった!

12/30 槍ヶ岳山荘-新穂高温泉
気が付くと朝になっていた。つい先ほど目を閉じたばかりではないか。シュラフから出るのが億劫でしかたない。それでも重い腰を上げ、小屋を後にする。天候は昨日の下山時から更に荒さを増していた。雪の降りしきる中、中崎尾根のラッセルに苦しみ、満身創痍で新穂高温泉までたどり着いた。


中崎尾根のラッセル。学生の底力を見せる時。

激動の5日間。とても5日とは思えないほど、濃く充実した山行となった。
独標に立ち、初めて目に飛び込んでくる大槍は神々しく、猛々しく、美しかった。


新穂高温泉へ下山

遊びのMVPアイテム1

フロウラップ®フーディ

入山から下山まで保温着の着脱以外では、驚くことに一度も脱がなかった。アクロ(ハードシェル)と着重ねても動きは快適そのもので、猛吹雪の中ではとても心強かった。本気で山をやる上で欠かせない一着だと思います。

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遊びのMPVアイテム2

ポリゴンULパンツ

雪山に行く際は必ず履いていく。嵩張らない、軽い、乾きも早い、しっかりと保温してくれる素晴らしいアイテムだと思います。今回の北鎌でも一度も脱ぐことなく、もはや肌の一部になっていました。

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執筆者:TOKYO BASE(アルバイト) 松浦 和史

入社年:2023年

山岳部4年。この4年間の活動はいつもファイントラックのウェアと共にありました。苦楽を共にした相棒も、4年目に突入すると味を通り越して、もはや別物の様になっていますが、今でもしっかり山で私を支えてくれています。卒業後は一旦ファイントラックからは離れますが、今度はプラチナ会員を目指して頑張ります!ありがとうございました!

※自然の中でアクティビティを行うためには、十分な装備、知識、経験が必要です。事前の準備を徹底したうえで、安全に注意してお楽しみください。
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