
夏は沢。猛暑のころはさらなり。日差しもなほ――。
近年の夏はあまりにも暑い。灼熱の太陽にさらされるサマーシーズンの登山は、なかなかにハードコンディションだ。身体に熱がこもり、ただ歩くだけでも消耗していく。
そこでおすすめのアクティビティが、そう「沢登り」だ。
海の日を含めた3連休をフルに使う「楽しい沢」というコンセプトのもと、金木戸川支流の小倉谷を遡行し、笠ヶ岳へ詰めあげ、打込谷を下降して周回する沢旅へ向かった。
■アクティビティ日:2025年7月19日~7月21日
小倉谷は、笠ヶ岳(2898m)にダイレクトに突き上げる、なんとも心躍るルート。打込谷からの下降が叶えば、美しいラインを引いて周回することができる(車回収問題も含め)。
前夜のうちに、万が一のエスケープに備えて持参した自転車を新穂高温泉にデポし、双六ダムへと向かう。
林道途中にまさかの倒木で行く手を阻まれるが、何とか動かせるレベルだったので総出で片付ける。先が思いやられるスタートだ。

朝方、沢装備を整えて金木戸林道を歩き始める。
片道約14km、2時間半の林道歩き。文句を言わないとやっていられない距離だが、小倉谷の出合いまで和気あいあいと進んでいく。
過去の記録によると、水量次第では出合いの渡渉が大きな核心となるらしい。少々心配していたが、今回は問題なく通過できた。

さすがのアルプス、水は容赦なく冷たい。極力水につからないよう石を渡っていく。


絶妙なサイズの岩の乗越やミニゴルジュ、


そして核心の小滝を越えて、両門の滝へ。
当初の予定よりも少し標高を上げすぎてしまい、幕営適地はなかったため、土木工事にてスペースを作成。焚火とごはんを楽しむ。沢は水が豊富なため、食事も豪華で満足度が高い。

今回の沢計画のリーダー岡嶋が、朝一の登攀を引き受けてくれるというので、ありがたくロープを託す。夏とはいえ源流の水は刺すように冷たい。早朝から水線を突き進むのは、正直ためらいがある。

見た目はスラビーで少し傾斜の強いナメ滝。
リーダーいわく「ラバーを信じるムーブ」が核心とのこと。少しもじもじしつつも無事に突破。
登攀が終わって右俣への高巻きをしていると、谷に日が差し込んできた。濡れた身体に温かな風が当たり気持ちがいい。生き返る気分だ。


上部の見栄えのする30m滝は、素晴らしきル―ファイで綺麗に落ち口にたどり着くことができた。

以降は、綺麗な草花を愛でながらひたすらに標高を上げていく時間。

山頂に近づくにつれて、段々と浮石の多いガレ沢になってくる。体感としては九割くらいの岩が動く。パーティーメンバーへの落石を避けるために、各々若干の距離を取りながら、進みやすいラインを登っていく。


ガレ沢を登りきると、山頂すぐ近くの登山道に詰め上げることができた。

笠ヶ岳からは、対岸の槍穂稜線がずーっと続いているのが見えた。見事な絶景だ。そのうち、あの稜線の縦走もやってみたい。
小屋の脇で少しの休憩をとり、打込谷への下降点を探す。
少々登山道を進み、絶妙に谷底まで落とせそうなポイントからハイマツ帯へドロップイン。ガレ場に入ると落石の危険があるため、上手くラインを見極める必要があった。

一部ロープを使いつつ無事水線へと復帰。ナメ状の沢筋からどんどんと高度を落としていく。
途中、滝上部でのスリップや、懸垂下降中に巨大な落石を引き起こしてしまうなどのヒヤリハットもあった。大荷物での沢下降はリスクも高い。気を抜かず常に集中していることが必要だと、改めて感じた出来事だった。

打込谷は、動植物が豊富でとても楽しい渓相だった。

今シーズンはキャニオニングの機会が多く、メンバー皆飛び込みへの意欲が高まっていた。そのため、飛べる滝はどんどん飛び降り、テンポよく下降していく。
一方で懸垂下降ポイントも多く、安全のためにもロープは積極的に出していった。その結果、思いのほか時間がかかり、幕営地に着くころには、全員しっかりと疲れていた。

しかし、本日の宿はとても快適な砂地。薪も豊富にあり、盛大な焚火で身体を乾かすことができた。
最終日3日目。
下るにつれ徐々に水量も多くなり、水線近くの下降や飛び込みも多くなる。

よしっ、と気合を入れて飛び込むが、いくら気合を入れたところで冷たいものは冷たい。所々日差しの当たる岩の上で甲羅干しをして身体を温めた。熱を持った岩に冷えた身体をぴったりとくっつけると、なぜあんなにも気持ちいいのだろう。

飛んで、降りて、また飛ぶ。

繰り返すうちに傾斜も穏やかになり、ようやく金木戸川双六谷の本流に合流することができた。

ひとまずの安堵。地図によると、双六谷沿いに林道が走っている。ボロボロの廃道かもしれないが、まあ沢下降よりも早いし快適だろう。…この時まではそう考えていた。
本流に合流すると明らかに水量が多くなった。渡渉も一苦労だ。
早いところ林道に上がってしまいたい。そんな思いで、林道を目指して側壁を巻き上がる。
シダ植物を鷲掴みにして土壁を這いあがる。しかし、いくら登っても林道らしきものは見当たらない。仕方がないので、それっぽい獣道をたどりながらトラバースしてゆく。

冷水に備えて着込んだ装備が災いし、うだるような暑さに汗が止まらない。枝をかき分け傾斜が強い斜面を進むが、一向に何も現れない。
ボロい沢筋にたどり着くと、申し訳程度のトラロープが脇に掛かっているのが見えた。あれが登山道だったのだろうか。真相は分からないが、鹿も通らなそうな崩れ具合だったため、大人しく本流に戻ることにする。時間が掛かった割に全く距離は進んでいなかった。
以降はスクラム渡渉などを駆使して、沢沿いを下降していった。水量が多い沢は、オブザべ力と戦略が試されるため難しい。
最初に渡渉した地点が見えてきたときは、なんだか嬉しかった。疲れ果てはしたが、無事に周回しきることができた。まだ太陽も出ている。全身の疲れを感じながら装備を整え、林道歩きに備える。
そう、この水系の大変なところはここからだ。
下ってきたあとは、再び林道を歩いて駐車ポイントまで戻らなければならない。これが果てしなく長いのだ。

始めは充足感に浸りながら歩いていたが、だんだんと日が暮れ、闇が近づいてくる。
長い。その一言につきる。ひたすら同じような道が続き、延々と終わりが見えない。
社内の体力自慢筆頭である衣川も、慣れない沢靴に足をやられ、拾った棒を杖にして満身創痍のゾンビのようにトボトボと歩いていた。
後にも先にも、これほど疲れ果てている衣川を見たことはない。真っ暗な闇のなか、ゴール地点のゲートにたどり着いたときは、皆の元気は完全に売り切れていた。

当初の目的どおり、力を出し切ることができた良い3連休の沢旅だった。


ドライレイヤー®ウォーム
沢登りには欠かせない超重要アイテム。冬用のアイテムというイメージが強いかもしれないが、シャワークライミングや泳ぎ、冷たい水の沢では、撥水性と保温性が非常に役に立つ。
寒がりの方は、夏の沢でもぜひウォームを試してみてほしい。

執筆者:マーケティング課 濵田 将大
入社年:2024年
山行に必要なものは「ロマン」。
美しくオリジナリティのあるラインを引けたときに充足感が得られる。
近所で拾ったイモリを飼育し始めて早一年が経ちました。