DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

より自由に自転車のツアーをしたいというのが、昨今の自分の方向性となっている。それは舗装路だけではなくオールロードを走るツアーであり、道だけではなくバイクラフトで水の上を移動し、自転車を担いで沢を登るツアーでもある。

2023年のお盆前半は中越から奥会津にかけての山々へ向かった。終電輪行で日付が変わる頃に到着した新潟県燕三条は少し蒸し暑かった。ここから奥会津の源流の一つを目指す。

■アクティビティ日:2023年8月10日~8月15日

【2023年8月10日~11日 八十里越え】

新潟県燕三条から始まるこのツアーでは、最終的に奥会津のある源流を目指す。まずは国道289号の分断区間となる八十里越えを、自転車を担いで歩き只見に出る。

八十里越えは新潟県中越北部と福島県会津地方南部を結ぶ古い街道であり、明治時代後期までは人の往来も多かったという。今でこそ只見に至る道は、長岡市から延びる六十里越道路やJR只見線で、容易にアプローチ可能である。しかし、車のない時代の人々は八十里越えを、米や魚や塩や山の幸を担いで越えていたのだ。

8月10日の宿泊地。舗装路が終わる地点に開けた場所があった。パドルや自転車を利用してゴージュタープを張った。

1日で只見まで出る計画で黙々と担いだ。

道には明確に踏み跡があり、草刈りも行われているようだった。蒸し暑すぎることと吸血アブが飛び回ることを除けば、序盤は歩きやすい。落ちている瓶や缶のごみは様々で、見たことのない古いものも多い。

途中、中身の入ったアサヒビール2Lビンが落ちていた。開けて嗅いでみると中身はガソリンだった。

一面湿地の田代平が広がっている。熊がいるのではないかと周囲を注意深く見まわした。

峠茶屋廃屋のある鞍掛峠を越えると田代平に着く。田代平には通り抜けるための木道ではなく、ただ田代平を回るだけの観光用の木道が広がっていた。今では人よりも熊の方がこの木道を使っているかもしれない。

後半に入ると特に小さい谷の横断が多い。

八十里越え二つ目の峠である木ノ芽峠を越えると、下っているのか微妙なトラバースが続いた。小さな谷をいくつも横断し、気温も相まって、靴も服もぐちゃぐちゃだった。日が沈みつつある中、登山道が唐突に途切れて担ぎが終わった。舗装路に復帰した瞬間だけは、何とも言えない解放感と、担ぎが終わってしまった口惜しさが混在する。

舗装路に復帰。背負っていたザックを自転車に乗せ換える。

自転車にまたがり只見へ向かった。やはり自転車は乗るのが一番だ。只見で温泉に入り、次のメンバーと合流した。八十里越えは「一里が十里にも感じられるほどの峠」という由来の通りとても長い峠越えだった。
※実際の距離は八里(31km)

今回、自転車を担いで越えた八十里越えであるが、2026年には15本のトンネルと20本の橋で車道が開通する予定となっている。1989年着工の工事がついに完成するのだ。

 

【2023年8月12日~15日 奥会津源流へ】

只見からはバイクラフト(パックラフトと自転車の組み合わせ)で源流域にアプローチする。安定する積み方や転覆した際の対応は、過去にいくつかのダム湖や川で検討済だ。風や流れに影響を受けやすいため、ダム放流の時間や風向きについても調べた上で、上流へ向かった。

長時間のバイクラフトで意外と重要なのは、飲み物を手の届く位置に置くこと。初めての時は飲み物を忘れ、ダム湖の水を手ですくって飲んでいた。

バイクラフト区間を問題なく進んだ後に入渓。最初は沢歩きだったものの、徐々にゴルジュの様相をなす。釜の泳ぎ区間は空荷で泳いだのち、自転車をゴージュバッグ25(フローティングロープ)で手繰り寄せ、尺取虫のように進んだ。

泳ぎ通過箇所。陸に上がったとたんメジロアブ(吸血アブ)の猛攻を受ける。

水線で突破出来ない箇所は、高巻く必要があった。途中の2連小滝の高巻きは、多すぎる荷物と自転車を担いで行うにはシビアで、2往復することとなった。なかなか河床に戻ることが出来ず、全ての荷物を持って河床に戻った時には日が暮れかけていた。

8月13日の宿泊地。タープを張って寝やすそうな場所は、水の流れから2mしか離れていない砂地だった。増水した場合の逃げ場所を確認し、荷物をある程度まとめた上で泊まった。

「次の曲がり角の先に担ぎでは突破できない滝や高巻きがあったらどうしよう。戻るにも戻りたくない」と不安な時間が多くあった。詰めあがるにつれ、水量に阻まれて高巻くことはなくなったが、遅々として進まない。

ひたすら上を目指す。難しい箇所は自転車とザックを分けて運ぶ。

8月14日の宿泊地。びしょびしょの装備を乾かすために枝に引っ掛ける。

テン場適地がなかなか見つけられず、ずるずると登った。最後の二俣付近でしょうがなく整地して泊まることになった。乾かしたい装備をそこら中の枝に引っ掛けたところで、急に雲行きが怪しくなり、ゴージュタープを張った直後に雨が降り出した。かなり上流におり、集水域が小さかったことから増水の心配はなかったが、全てが濡れたまま翌日も行動することになるのは憂鬱だった。

最後の詰め。水の勢いがなくなる一方、藪の勢いは増してくる。

パラパラと雨の降る中、稜線へ詰めあがった。徐々に藪は濃くなり、自転車を藪の上から前方に放り投げながら、藪を漕いだ。藪区間が終わり稜線に出ると、その時の自分達には舗装路にすら見えた木道と階段から成る登山道があった。

稜線はガス。誰とも会うことなく登山道を下った。天気は下っているうちに晴れた。

登山道を下山して(もう別の沢を下る元気はなかった)、桧枝岐村の道の駅で資本主義文明に戻った。予定よりも+1日かかったが、最後まで自転車とともに行きたい場所へ行くことができた。少し休憩した後、輪行するために会津方面へ走り出す。本州直撃予定の台風を輪行でやり過ごし、お盆後半は南アルプスへ向かうのだ。

 

遊びのMVPアイテム

ゴージュタープ

沢に泊まる時は、張り方の自由度が高いゴージュタープを使っている。外界と隔てるものがなく、自然と地続きな解放感はタープでしか味わえない。家に帰って陰干しする時に香る染みついた焚火の匂いも、個人的には大好きである。

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執筆者:プロダクト事業部 生産管理課&商品開発課 衣川 佳輝

2022年入社

自転車の後ろに登山用ザックを積み、国内外季節問わず、長期間のツーリングや担ぎや登山をメインに遊んでいます。23-24の冬は自転車のツアーに加え、テレマークスキー、罠猟、シクロクロスにも取り組んでいます。

 

※自然の中でアクティビティを行うためには、十分な装備、知識、経験が必要です。事前の準備を徹底したうえで、安全に注意してお楽しみください。

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